たはら藤太

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ライセンスURI https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1
所有機関等 広島大学
タイトル たはら藤太
タイトルヨミ タワラトウタ
著者 [作者未詳]
巻号
物理サイズ 1冊(全3冊)
装丁 和装
写刊区分 写本
所在 広島大学図書館
コレクション 奈良絵本 室町時代物語
説明1 [あらすじ] 朱雀院の代、近江国の俵藤太秀郷は、女房に化けた大蛇の依頼でむかでを倒し、米の尽きることのない米俵を得て栄える。のちには下総で反乱を起こした平将門をも討伐し、一門は末永く繁栄した。
説明2 [解説] 武士を中心に描いた作品である、いわゆる武家物の一種。諸本は絵巻の形で伝わる古本系統と、絵入り刊本・絵巻・絵入り写本等の形で伝わる流布本系統とに大別される。流布本系統は、「古本系を増補改作して俵藤太を主人公とする物語としての体裁を整えたもの」で、その増補改作にあたっては「特に三井寺に関する記述が詳しくなっている点が注目される」(『中世王朝物語・御伽草子事典』)。広大本は奈良絵本3冊で、流布本系統に属する。
参考文献
【テキスト】1『室町時代物語大成』9/2新潮日本古典集成『御伽草子集』/3新日本古典文学大系『室町物語集』下 ほか多数。
【研究文献】1大島由起夫「お伽草子『俵藤太物語』の本文成立」(『伝承文学研究』31、昭和60年5月)/2荒木博之「伝承のダイナミズム―俵藤太伝説形成の周辺―」(説話伝承学84『説話と歴史』、昭和60年桜楓社)/3廣田収「俵藤太絵巻」(『体系物語文学史』4、平成元年有精堂)/4松田宣史「園城寺の鐘伝承」(『國學院雑誌』100-2、平成11年2月)
翻刻 [page 2]
たはら藤太 下
さるほとに、平のさたもりは、官兵ニ千よきをしたかへ、あしから、はこねを、夜のうちにうちこえ、てんきやう九年ニ月十三日と申にはむさし野につきにけり。こゝにして、ひてさとのせいとあはせて、三千よき、とね川をうちわたして、あくれはニ月十四日、しもふさの国いそはしに、ちんをとるまさかと、此よしきくよりも、わかしやうへ、いらせてはかなふまし

[page 3]
とて、しやてい、しもつけの守まさより、同しく、大あしはらの四郎まさひらに、かつさ、ひたちのせい四千よきをあひそへ、おなし日のむまのこくに、かう嶋のこほり、きた山といふところに出して、ちんをとる。さたもり、かたきのちんに、はせよせ、大をんあけて、申やう、たゝ今こゝに、すゝみ出たるつはものを、いかなるものとか、おもふらん、ちかくは、めにもみよ、とほからんものはをとにもきけ、人わう五十代の、みかとのこうゐん、ちんしゆふの将くん、平のくにかゝ一なん、上平太さたもりなり、けうそくのらんきやくを、しつめんために、一てんの君の、せんしをかうふりたゝいまこゝに、むかふたり。つちも木も、わか大君の、くになれは、いつくかけうとのすみかならん。すみやかに弓をふせ、かふとをぬいて、君の御かた

[page 4]
に、まいるヘしと、よはゝりけり。まさより聞て、から〳〵と、うちわらひ、まさしききやうたいをすてゝ、君にまいらは、ちうしんとや申へき。せい代のむかしは、わうゐもおもくましますらん。たうしまさかとのいせいに、十せんの君と申とも、いかてか、たいやうし給ふへき。かつうは、いくさかみの、御たむけにたゝ一や、うけて見給へと、いふまゝに五人はりに十五そく、つるきのやうに、みかいたるを、とつて、からりと、うちつかひ、かなくりはなちに、はなちけり。むないたに、つるやせかれけん、おもふやつほには、あたらす、さたもりかのつたる馬の、さんつにあたつて、つとぬけにけり。馬はひやうふを、かへすことくに、たふれけれは、さたもりは、のしかへに、のつたりけり。まさより一のやを、いそんし、やすからすおもへは、三しやく八寸の、うち物ぬひて、さたもりを、

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めにかけて、うつてかゝる官くんには、さたもりのきやうたい、むらをかのニ郎たゝより、同三郎よりたか、よこのこれもり、これもちなんととて、一人たうせんのつはもの三百よ人、うつてかゝる。てきのかたよりも、まさよりうたすなとて、ひたちのかみつるもち、むさしのかみをきよ、さかのうへのちかたか以下のつはもの、一千よき、われも〳〵と、せめたゝかふほとにさんかさうもくとうようして、ゆゝしかりしありさまなり。平しんわうまさかとは、此よしを、きこしめし、さほとのやつはらを、わかりやうないに、引入て、こまのひめをかけさするこそ、きつくわひなれ。かやうのやつはらを、一々に、くひきつてすてん、とて、御きせなかをめされつゝ、あしけのむまに、うちのつて、むちをあけて、出たまふ。そのありさま、まことに、よのつねなら

[page 6]
す、たけは七尺にあまりて、五たいは、こと〳〵く、かねなり。ひたりの御まなこに、ひとみニつあり。まさかとに、あいもかはらぬしんたい、おなしく六人あり。されは、いつれをまさかとゝ、見わけたるものは、なかりけり。まさかと、うつて出給へは、まさたけ、まさため、いかのくん兵一千よ人、せんこさうに、したかひ、よせてのまんなかへ、ゑしやくもなく、うつていり給ふ。そのけしき、ろやうか日をかへし、かうわうか三しやうをなひけしいきほひにも、こえたれは、おもてをあはするてきもなし。されは、ひつしの時より、さるのこくに、をよふまて、うたるゝ、くわんくん、八十よ人、きすをかうふるもの、す百人、その外、なかはをちうせて、いまは、たゝかふに、しゆつなかりしかは、さたもりはこちんのせいをまちて、たゝかはんとおもひ、そのよ、むさしの国へ、ひきしりそきぬ。

[page 7]
まさかとは、もとより、をこれる人なれは、くはんくんをあさむき、なにほとの事か、あるへき、とて、そのまゝ、にくるをもをはす、かち時をつくりて、しやうのうちへそ、いり給う。さるほとに、藤太ひてさとはまさかとの有さまを見て、これは、人けんの、ふるまひには、あらす。にほんこくをあはせてたゝかふとも、此人にせうをせん事は、かなふまし。もとより、まさかとは、はかりことみしかふして、ちえあさき人ときけは、いかにも、ほうへんをめくらし、たはかりうたんにはしかしとおもひ、さたもりによく〳〵いひあはせ、みつからは、たゝ一人さうまのたちへ、ゆかれけり。まさかとは、藤太にたいめんして、さま〳〵に、もてなさるゝ。藤太、へつらひて申やう、君の御ありさまを見るに、まことに、四てんわうの御いきほひにも、こえたそのうへまさしく、かつら

[page 8]
原のしんわうの、御しそんにてましませは、十せんのくらゐを、ふみ給ふに、はゝかりなし。一てん四かいを、おさめたまはん事、ほとちかく候へし。物のかすには、候はねとも、此藤太か身をも一はうの御やくに、めしつかはれ候はゝ、ゆみやのほんゐにて候へしと、まことしやかに、申けれは、

[page 9]
十一 ひてさと

[page 10]
まさかと、こゝろあさくよろこひて、申さるゝことに、をの〳〵の、ちからをたのんて、一天をおさめ侍り、せんそのふきうを、かゝやかさむと、思ふなり。御へんとても、せんそをとへは、まさしくたんかいこうのなかれそかし、こくと太平ののちは、くんしんわかうの、まつりことをなすへしとて、すこんのけうに、をよひけり。ことはりなるかな、まさかとは、わか身こと〳〵く、金たいなり。かたきにあふて、おそるゝところなけれは、いま、藤太かまいるをも、はゝかりたまはぬは、とかう申にをよはす、うんめいのすゑとあさましかりし、ありさまなり。藤太は、やかたのみなみなる、しんてんをあつかりつゝ、あさゆふはかり、しゆししたり。あるとき、藤太、うちさふらひへ、出たりしに、としのよはひは、廿はかりとおほへし上らうの、ゆうにやさしきか、

[page 11]
にしのたいの、れん中より見出し給ふことあり。藤太此ありさまを、一め見まいらせ、ゆめうつゝ、やるかたなくそゝろに、おほえけれは、しゆく所にかへりて、せんこもしらすふしたりけり。これやまことに、なつのむしの、ほのほに身をこかす思ひなれは、よしなかりけるこひちなりと、おもひかへせと、さすかになを、そよとみそめし、かほはせの、わすもやらす、くるしけれは、せめてはかくと、しらせなは、しぬるいのちも、をしからしと、おもひしつみて、いたりけり。こゝに、またしくれと申て、やかたより、かよひものする女はうあり。ひてさとのもとにきたりて、いふやうは、御ありさまを、見まいらするに、たゝことゝもおほえす、おほしめすことあらは、わらはに、

[page 12]
仰られ候へし、ちからにかなふ事ならは、かなへたてまつるへし、御こゝろを、おかせ給ふなよと、ねんころに中なり。

[page 13]
藤太、此よしきひて、うれしくも、とひよる物かな、人のこゝろは、いさしら雲の、よそにして、わりなき事を、かたり出し、とてもかなはぬ、物ゆへに身をなきものと、なしはてなは、こうたいの、あさけりなるヘしと、おもひめくらしけるかまてしはしわかこゝろ、たれか百年の、よはひをこせし、人やある、つゆとならは、ゑんふのちり、秋のしかの、ふえによるも、つまこふゆへそかし。われも、此人ゆへと、おもはゝ、すつるいのちも、をしからしと、思ひさためつゝ、をきなをりて、さゝやきけるは、はつかしや、おもひうちにあれは、色ほかに、あらはるゝとは、かやうのためしや申すらん、みつからか、おもひのたねをは、いかなることゝかおほすらん。いつそや、御まへゝまいりし時、御つほねのれん中より、見出されたる、上らうの御たちすかたを一めみしより、こひのやまふ

[page 14]
となり、ししやうさためぬわか身のふせい、たれかあはれと、とふへきやと、さめ〳〵と、なきけれは、時雨、此よしをきゝて、いつはりならぬ思ひのいろ、あはれにおもひ、されはこそ、みつからか、かしこくも見しりまいらせたるものかな。その御ことは、わがしうの、御めのとこにてをはします、こさいしやうの御かたにて、ましますなり。色には人の、そむこともあり。おほしめすことの葉あらは、一ふてあそはし、たまはれかし。まいらせて見ん、といへは、藤太、いとうれしくて、とるてもくゆるはかりなり。むらさきのうすやうに、なか〳〵こと葉はなくてこひしなはやすかりぬへき露の身のあふをかきりになからへそする

[page 15]
とかきて、ひきむすひて、わたしけり。しくれ、此たまつさをとりて、こさいしやうの御かたへ、もちてまいり、これ〳〵の物を、ひろひて候、よみてたまはれと、申けれはこさいしやう、なにこゝろもなく、ひらきて、見たまひつゝ、これは、忍ふこひのこゝろをよめるうたなり、とおほせられけれはしくれ、さしよりて、なにをか、つゝみ申へき、しか〳〵のかたより、御まへゝさゝけ奉り、一筆の御返事をも、うかゝひてえさせよと、たのむにいなみかたくて、おほそれなから、さゝけたてまつるなり。なにかは、くるしう候へき。さゝのをさゝの、露のまの御なさけは、あれかしとわふれは、女はう、かほうちあかめて、なか〳〵ものものたまはす。しくれ、かさねて申やう、ゑひすこゝろの、わくかたなくて、こひしなは、なかき世の、御物おもひ

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と、なるヘし。てんちくのしゆつはか、きさきをこひ、おもひのほのほに、身をこかしけるためし、おほししらすやと、やう〳〵に、いひなくさむるほとに女はうも、さすか岩木にあらねは、人のおもひの、つもりなは、すゑいかならんと、かなしくて、かの玉つさのはしに、一ふてかきて、ひきむすひて、いたされたり。しくれ、うれしくおもひて、やかて藤大のもとにきたりて、わたしけり。藤太とるても、たと〳〵しく、ひらき見れは人はいさかはるもしらていかはかりこゝろのすゑをとけてちきらんと、あそはしけるを見て、よろこふ事はかきりなし。それより、忍ひ〳〵にまいりつゝ、わりなき中とそ、

[page 17]
なりにけり。此事、ふかくつゝみ、かくしけれは、御所中にしる人、さらになし。さるほとに、へいしんわうまさかと、つねに、此女房のよそほひを御らんして、御こゝろにそみて、おほしけれは、時々は、この御つほねへ、かよはせ給ふか、をりふし、しんわう、此つほねに、おはしける時、ひてさと、まいりあふたり。あやしくおもふて、物のすきまより、うかゝひみれは、おなし、なんたいの上らう、そくたいにて、七人ひとしく、さしたまふ。こは、ふしきの事かなと、おもふて、その夜は、かへりけり。あけの夜、また御つほねへまいりて、さま〳〵に、むつましき事を、いひかはしてのち藤太、さてもすきし夜、此御つほねに、人をとのしけるを、たれ人やらんと、さしよりて、物のひまより見てあれは、さしもけたかき上らうの、をはし

[page 18]
まして候は、たれ人やらんと、とはれけれはこさいしやう、それこそ、まさかとのきみにて、をはしませ。見まかい給ふにや、と、のたまへは。藤太、かさねて申やう、殿ならはたゝ御一人こそをはすへけれ。をなしたいはいの、上らう七人、まみえをはしつるこそ、ふしきなれと、申時にこさいしやう、さてはいまた、しろしめさすや、殿はよのつねにこえ、御かたちは一人なれとも、御かけの、六たいましますゆへに、人めには、七人に見え給ふなり。藤太、きいの思ひをなし、さて御ほんたいには、御みしりの候やと、とはれけれは、女房、ゆめうつゝ、人にかたらぬことなれとも、御身なれは申也。うはのそらに、おほしめし、他人に、もらしたまふなよ。かのまさかとは、御かたち七人にて、御ふるまひ、かはる事なしといへとも、ほんたいには、

[page 19]
日にむかひ、ともし火にむかふとき、御かけうつりたまふ。六たいには、かけなし。扨また、御しんたい、こと〳〵く、こかねなりといへとも、御みゝのそはに、こめかみといふところこそ、にくしんなりと、かたらせたまへは

[page 20]
藤太、よく〳〵きひて、あつはれ、大事をも、きゝつる物かな。これこそ、まことに、わか生国の大明神、御たくせんにてあるヘしと、いとありかたくて、そなたのかたにむかつてきねんのきしよくを、したりけり。扨は、このたひ、まさかとを、たゝ一やに、いわうせんことは、あんのうちとおもひとり、そのゝちは、よなよな、かの御つほねへまいるには、ひそかに、弓とやをわきはさみ、しのひうかゝひけり。あんのことく、又まさかと、かの御つほねへ、いらせたまひて、うちとけて、御物かたりなと、し給へり。藤太、物のひまより、よく〳〵見れは、けにも、六人にはともし火に、うつる、かけもなし。ほんたいには、かけのありと、いふに、つゐて、めをすましみれは、時〳〵、かのこめかみといふところ、うこきけり。藤太あつはれ、さいわゐかなと、

[page 21]
弓とやを、うちつかひ、ひようといたりけり。もとより、ひてさとは、せいひやうのてたれ、やうゆうか百ほのけいにも、こえたるうへ、やころはまちかし、なにかはもつて、いそんすへき。こみゝのねと思ふところを、あなたへつんと、いとをしけれは、さしもにたけき、まさかとも、のつけにたをれてむなしくなれは、のこる六人のかたちも、てんくわうせきくわのことくにて、ひかりとともに、うせにけり

[page 22]
さるほとに、まさかとほろひぬれは、さたもり、ひてさとは、よろこひの、まゆをひらき、うちとるところのくひ、ならひに、いけとりともを、めしつれ、さゝめかひて、のほらるゝいせいのほとこそ、ゆゝしけれ。道とをけれは、わうしやうへは、まことのさうは、いまたきこえす、くはんくんはいくさにはうちまけ、まさかとは、すてにていとへ、せめ入なとゝ、きこえけれは、しゆしやう、大きに、

[page 23]
をとろかせたまひつゝ、しよ寺、しよさんに、ちよくし立て、てうふくのほうを、しきりにをこなふへきよし、せんけせらるゝ中にも、やさかの、しやうさうきしよは、こんと、まさかとか、せめのほるといふことは、まつたくもつて、そらことなるヘし。もし、さもなくは、ほうけん、いたつらことなるヘし。たゝし、かのくひの、のほり候にやと、ちよくたう申されけるか、はたして、四月廿五日、さたもり、ひてさとの両人、まさかとの、くひをもちて、上らくせられけり。これによつて君も、御物おもひを、やすめられ、しんもよろこひ、いさみつゝ、一てん四かいのにんみん、あんとのおもひを、なしたりけり。すなはち、けひいしを、つかはされ、まさかといかの、くひを、うけとらせて、大ちをわたし、ひたりの、こくもんの木に、かけ

[page 24]
させけるに、まさかと一人のくひは、いまた、まなこもこかれす、いろもへんせす、時々は、はかみをして、いかるけしきなり。おそろしといふはかりなり。これを、あるすきのものか見て、まさかとはこめかみよりもいられたはら藤太かはかりにてとよみけれは、このくひ、から〳〵とわらひて、そのゝち色もへんし、まなこも、ふさかりけるとかや。さるほとに、たいりには、くきやうてん上人、さんたいしたまひて、こんと、けうとたいちにつきをんしやうをおこなはるそうしゆには、そんいそう正、そうつしやうさうきしよなり。これみな、ふしのしやうに、ぬきんてらるゝには、たいらのさたもり、むゐより、正五ゐに

[page 25]
にんして、しやうくんに、にんすへきよしの、せんしをくたされ、ふちはらのひてさとは、しゆ四ゐのけに、にんして、むさし、しもつけ、両国をたまはり、さたもり、ひてさとの、りやう人をめされて、せんしをたまはるきしき、まことに、ゆゝしき事、しゝそん〳〵、弓やのめんほくとそ、見えし

[page 26]
十五 ひてさと

[page 27]
さても、たはらとうたひてさとは、せんしを、ちやうたいし、一もんをひきくして、しもつけに、くたりつゝ、ほんりやうに、あんとし給ふ。そのはんしやうは、月日にまさりて、もんくわひにこまのたてともなく、たうしやうに、しゆゑんのひまもなし。国中のはんみん、ちうあるものをは、のそまさるに、くわふんの、をんしやうを、あておこなはる。つみあるものをは、すみやかに、これをこらさしめ、しやうはつ、たゝしけれは、人の、なつき、したかふこと、さいけんも、なかりけり。そのうへ、しそんもゆゝしくて、のち、将くんに、にんす。次に、をやまの次郎、うつのみやの三郎あしからの四郎、ゆふきの五郎、なんとゝて、なんし、す十人にをよへいかめしかりし、ゑいくわそも〳〵、たはら藤太

[page 28]
ひてさとの、まさかとをうちほろほし、とうこくに、いせいをほとこし給ふ事ひとへに、りうしんの、をうこし給ふなるヘし。それを、いかにと申に、りうしんは、女人に、へんけし給ふなれは、かの、こさいしやうの御つほね、又、しくれと申女はう、いさしらくもの、よそにして、ひてさと、たひせつにいとをしみ、大事をかたりきかせて、かうみやうを、きはめさせし事よくおもへは、かのをんなのこゝろに、りう神、いりかはり給ふかおほつかなし。そのうへ、三井寺の御ほそんみろくさつたの御めくみふかきゆへ、しそんのはんしやう、さうそくす。日ほん六十よしうに弓やをとつて藤太と

[page 29]
なのるいゑおそらくはひてさとのこうゐんたえぬはなかるへし。いかめしかりしためしなり。
資料番号 [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2797/[登録番号2]文理13327