doi : 10.15027/da53
住吉物語
| ライセンス種類 |
このコンテンツは「パブリックドメイン」の条件で利用できます。詳細はリンク先をご確認ください。|Content is available under the terms of "Public Domain". Check the link for details.
|
|---|---|
| ライセンスURI | https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1 |
| 所有機関等 | 広島大学 |
| タイトル | 住吉物語 |
| タイトルヨミ | スミヨシモノガタリ |
| 著者 | [作者未詳] |
| 巻号 | 下 |
| 物理サイズ | 1冊(全3冊); 挿絵: 上中下それぞれ五丁分 |
| 装丁 | 和装 |
| 写刊区分 | 写本 |
| 所在 | 広島大学図書館 |
| コレクション | 奈良絵本 室町時代物語 |
| 説明1 | 題簽は墨書。本文は十行古活字本系であるが、一部白峰寺本系と同文。また、非流布本系の本文箇所ある。 あらすじ: 四位少将が姫君に求婚するが、継母が策を弄して妨害する。姫君は亡母の乳母が尼となって隠棲する住吉へ逃れ、姫君を忘れることのできない少将は初瀬に参詣して夢想を得、住吉で姫君と再会。二人は都へ戻って幸福な結婚生活を送る。 |
| 翻刻 | [page 3] すみ吉物語下 少将、此ことのおほつかななさに、うへのもとにおはしたれは、三の君、しか〳〵と、袖もしほるはかりにかたり給へは、物のあはれをしりて、かく、の給よとおほしけり。かくて、正月のつかさめしに、右大臣は関白に成給ふ。少将は中将になりて、三位し給へり。中将は、それとも、おもはて、ひとへに神仏の御前に参りても、ひめ君のありところしらせ給へとていのり給けれとも、させるしるしもなかりけり。うたもすきて、九月はかりにはつせにこもりて、七日といふ、夜もすからおこなひて、あかつきかたに [page 4] すこしまとろみたる夢に、やんことなき女、そはむきてゐたり。ひきむかひて見れは、わかおもふ人なり。うれしさ、せんかたなくていつくにおはしますにか。かくいみしきめをは見せ給ふそ、いかはかりおもひなけくとしり給へるといへは、うちなきて、かくまてとはおもはさりしを。いと哀にそといひて、いまはかへりなんといへは、袖をひかへて、 わたつうみのそこともしらす侘ぬれは すみよしとこそあまはいひけれ といひて、たつをひかへてかへさすと見て、うちおとろきて、夢としりせは、せんかたもなかりけり。さて、仏の御しるしそとて、夜のうちに出て、住よしといふところ、たつねみんとて、御ともなるものには、精進のつゐてに、天王寺、住吉なとに参らんとおもふなり。をの〳〵かへりて、此よしを申せとおほせられけれは、いかに、御ともの人なくては侍へき。すてまいらせて参りたらんに、よきことさふらひなんやとしたひあひけれとも、しけんをかうふりたれは、そのまゝになん。 [page 5] ことさらに、おもふようあり。いはんまゝにてあるへし。いかにも、くすましきそとて、みすいしん一人はかりをくして、しやうゑのなへらかなるにうすいろの衣の白きひとへきて、わらくつ、はゝして、たつた山を行、かくれ給ひにけれは、きこえわつらひて、御とものものはかへりにけり。 [page 6] すみよしには、そのあかつき、ひめ君の、御あとにふしたる侍従に聞ゆるやう、まとろみたりつるゆめに、少将、の給ふやう、心ほそかりつる山の中に、たゝひとり草枕して、おきふし給ふ所にゆきつれは、われをみつけて、袖をひかへて、 たつねかねふかき山ちにまよふかな きみかすみかをそことしらせよ となんありつると、あはれにかたり給へは、侍従、けにいかはかりなけき給ふらん。まことの御夢にこそ侍れ。哀れとおほさすやと聞ゆれは、岩木ならねは、いかてかなといひつゝ哀けにおほしたりけり。中将は、ならはぬさまなれはわらくつにあたりて、あしよりちあへり。ゆきやらぬけしきなれは、みちゆき人、あやしき物とも、めをつけてそ見あひける。さても、なくなく、とりのときはかりに、はる〳〵となみたてる松の一むらに、あしや所々にありける所にゆきつき給ひぬれとも、いつくともしらす思ひわつらひて、松の下にやすみ給ひけるに、十あまりなるわらは、松の落はひろひけるを [page 7] よひ給て、をのれは、いつくにすむそ。此わたりをは、いつくといふそとゝへは、住よしとなん申、やかてこれに侍なりといへはいとうれしきことゝきゝて、此わたりに、さるヘき人やすむとおほせられけれは、かんぬしのたゆふとのこそといへは、さても、京なとの人のすむところやあるとおほせらるれは、すみの江とのと申ところこそ。京のあまうへとて、おはするといひけれは、こまかにたつねとひて、ゆき給ひたれは、 [page 8] 江につくりかけたる家の、物さひしきタ月よ、木のまより、ほのかにさし入て、をさ〳〵しき人もみえす、いと物あはれなり。日もくれけれは、松のもとにて、人ならはとふへきものをなと、うちなかめて、たゝすみわつらひ給ける。さらぬたにも、たひのそらはかなしきに、タなみちと哀れになきわたり、きしのまつかせ、ものさひしき空にたくひてことのねほのかに聞えけり。此こゑ、りつにしらへて、はんしきてうにすみ渡り、これをきゝ給ひけん心いへはをろかなり。 [page 9] あな、ゆゝし。人のしわさには、よもなとおもひなから、その音にさそはれて、なにとなくたちよりて聞給へは、つりとのゝにしおもてに、わかきひとり、ふたりかほと、聞えてけり。ことかきならす人あり。冬は、をさ〳〵しくも侍りき。此ころは松風、なみの音もなつかしく。都にて、かゝる所もみさりし物を。あはれ〳〵、こゝろありし人々に見せまほしきよと、うちかたらひて、秋のタはつねよりも、旅のそらにそあはれなれなと、うちなかむるを、侍従に聞なして、あな、あさましと、むね打さはきて、聞なしにやとてこゝろをとゝめてきゝたまへは、 たつぬへき人もなきさのすみの江に たれまつかせのたえすふくらむ と、うちなかむるをきけは、姫君なり。あなゆゝし仏の御しるしは、あらたにこそとうれしくて、すのこにたちよりて、うちたゝけは、いかなる人にやとて、侍従、やかてかきよりのそけは、すのこによりかゝりたるすかた、夜めにもしるしの見えけれは、あな、あさまし、少将とのゝおはします。 [page 10] いかゝ申へきといへは、ひめ君も、あはれにも。おほしたるにこそ。さりなから、人聞みくるしかりなん。われはなしと聞えよとあれは、侍従出あひて、いかに、あやしきところまておはしたるそ。あな、ゆゝし、その後、ひめきみをうしなひたてまつりて、なくさめかたさに、かくまてまとひありき侍るになん。見奉るに、いよ〳〵いにしへのこひしなといひすさみて、あはれなるまゝに、なみたにかきくれてものもおほえぬに、中将も、いとゝもよほすこゝちそし給ふ。侍従の、君のことをはしのひこし物を、うらめしくも、の給ふ物かなと御こゑまてきこえつるものをとて、しやうゑの御袖をかほにをしあてたまひて、うれしさもつらさも、なかはにこそと、の給へは、侍従、ことはりにおほえて、さるにて、あま君にいひあはすれは、ありかたき事にこそ。たれも〳〵、ものゝ哀れをしり給へかし。まつ、これへいらせ給ふへきよし、聞え奉れといへは、侍従、なれ〳〵しく、なめけに侍れとも、そのゆかりなるこゑに。たひは、さのみこそさふらへ。たちいらせ給へとて、袖をひかへ [page 11] て入けり。かみひやうふに、やまとゑかきたる、一よろひたてゝ、もやのみすにくちきかたの経かたひらかけて、いとあるヘかしく、しつらひたり。いとうつくしきあしに、つちつきて、所々、ちうちあへて、ほさきあかみて、くるしけなる御すかたを見て、あま君、いそき出てきこゆるやう、ひめ君もこれにおはしますになん。侍従、あはれとはみたてまつりなから、わかき物にて、うちはなちに申けるにこそ。あまは、うれしきにもつらきにもならひてすきたる身にて侍れは、かたしけなく、あはれに見奉る。あな、ゆゝし、いかてかをろかにはとて、ひめ君に、此よしをきこゆれは、われもをろかならすなから、みやこの聞え、つゝましさにこそと、の給へは、それも、ことはりなから、よろつ、ことのやうにこそより、よしあし知ぬものゝ、心なき岩木なれとも、これほとの事には、ゆるき侍るものを。いまは、このあまを、せちにおほしめさは、申さんまゝにおはしませ。さなくは、うみ河にもいりなんと、いひこしらへに、侍従に、たゝ、ひめ君のおはします所へ、くし参らせよといへは、侍従、中将 [page 12] に此よし聞ゆれは、ともかくもとて、うれしけにそおほしける。夜ふくるほと、侍従、さきにたちて、しるヘしつ。さても、うちふすこともおはしまさすして、はしめよりのことゝも、かきくときつゝ、なく〳〵、の給ける。夜もあけ、日も出るほとに、ひめ君を見たてまつり給ひけれは、さか野にてみしよりもさかりと見えて、ねくたれかみのおほめきて、なつかしさ、いふもおろかなり。 [page 13] かくしつゝ、ニ日三日にもなりしかは、そのわたりにも、つかふまつりし人あまたありけれは、をのつから聞つけてそ、をの〳〵まいりあへり。さひしき所ともなく、松のもとにて、酒のみ。のゝしりあひけれは、そのあたりの物とも、おとろくほとなりけり。かゝる程に、京には、中将とのゝ、たゝひとり住よしえまいり給ひぬと聞て、関白との、帰りたるものをは、すいしん所へくたされてけり。さて、ゆかりある人々、さへもんのすけ、くら人の少将、兵衛のすけとのよりはしめて、四位五位なと、そのかす、すみのえに尋ねゆきて、いみしく、おほつかなからせ給ふに、いかになといへは、しけんによりてこれに侍つるほとにおはすに、此あたりにあるものにみつけてなと、の給へは、神仏へ参ては、おこなひをこそすれ。ゆゝしき御つとめかなとて、たはふれて。うちわらひ給て、うれしく、これまて尋給へり。なにはわたりも、かゝるつゐてなくては、いかてか御覧すへきと、の給つゝ、夜ふくるほとに、住のえに月さやかに澄みわたりて、まつかせ、浪のおとにたくひつゝ、あはち嶋まてか [page 14] よひて聞ゆるさま、此よならすおもしろかりけれは、人々、すみのえにてあそひたはふれ給へり。三位の中将、こと、蔵人の少将、ふえ、兵衛のすけ、しやうのふえ、さゑもんのすけ、歌うたひ給けり。姫君、侍従、あま君なと、これを聞て、よろつはるゝこゝちそし給ひける。さて、夜明けれは、あまともめして、かつきせさせて見たまへり。さて、その日、京へのほらせ給ふとて、いとこと〳〵しかりけり。ひめきみをは、ゐ中人のむすめとて、あひくし奉り給ふ。ひめ君をは、あま君、心やすく見たてまつりなから、此ほとの名こり、申はかりなし。あま君には、いつみなる所、あつけられけれは、ゆくすゑの事はおもはすたゝ、あのひめ君の御事のみそおもひ侍つるほとに、今はよみちやすくとて、をくりて、うれしき物から、はなれ行も、さすかに哀れなり。とにもかくにも、おつる涙かな。仏になりなんのちそや、とゝまるヘきとて、くときける。ひめ君も、なにとなく、ニとせまて住し所、はなれゆくこそあはれなれ。あま君も、いかに、ならひてこひしく、かたはらさひしく [page 15] おもはんなと、侍従に聞えあはせて見返給ひけれは、やう〳〵遠くなりゆほとに、一むらのたえまより松の梢はるかにけれは すみよしの松のこすへのいかならん とをさかるまてそてのつゆけき とおもひつゝけられける。かくしつゝ、河しりをすくれは、あそひものとも、あまた、舟につきて、心からうきたる舟にのりそめてひとひもなみにぬれぬ日そなきなとうたひてよとまてそつきにける。さても、京へのほりつきてとのに参給へはあやしきありき、むつかりなから北のかたをしつらひてすませ給ひける。まゝはゝ、これを聞て、中将とのはあやしきゐ中人のむすめをこそぬすみ給ひけれ。あたら人のなく、むくつけ女にいひあはせて、そねみゐたりける。中納言は月日のかさなるまゝに、おもひのみまさりて今一たひもとのすかたにてあひみんとおもふ心のつれなさよ。かくてのみあかしくらすになとおほす程にとしのほとよりもことの外におひをとろへ手見え給ひけり。まゝはゝ、これを [page 16] みて、ひめ君は、たちぬる月とかや、あやしの法師にくしてこそおはしけれ。たしかに人のつけ侍しなりと聞ゆれは、いみしき人のことも、此姫君はかりは、おほえす。いかにしても、たいらかにてたにもあらは、うれしきことにこそ。たれ人のいひけるにか。たつねあひて、いきたるをり、今ひとたひ、みて、しての山ちをも、やすくこえん。うれしく、の給ひたり、との給ひけれは、いとなんうけにてまことや。たそおもひわすれてなといへは、むくつけ女、あの物さふらふそかしなとそいひける。中納言、こゝろつきなしとおもひて、なんあみた仏〳〵とそ申されける。さて、姫君は、かくて侍とてたに、中なこんとのに申さはや、心あはせたりとて、神仏にものろひ給はんにはたかためも、いとおそろしきことなり。住よしにおはせは、さて、ことそやみなましか。これはつゐに聞え給はんすれは、心やすくおほしめせと、の給へは、姫君、おほしなけくらんことのかなしくて、よにすむかひなくてと、の給へは、まことに、ことはりなからも、たゝ申さんまゝにて [page 17] おはしませとて、ニ条京極なる所にわたり給ひけり。あかしくらし給ふほとに、ひめ君、過にしとしの十月より、御けしきありて、又のとしの七月に、いとうつくしきわか君いてき給へり。中将、おほしかしつき給ふ事、かきりなし。かうしつゝすき行ほとに、中将は、ねかはさるに中納言になりて、右大将に成たまひけり。中納言は大納言になりて、あせちかけ給へり。ともにうちへ参りあひて、物語のつゐてに、老おとろへてこそみえさせ給へとあれは、大納言、まつ、うち鳴て、まことに、これにてしらせ給へ。心にかなはぬ物はいのちにて侍かな。かくてもいきてさふらふとて、人めもつゝみ給はさりけり。大将、このつゐてにや、いはましとおもひなから、猶、おもひ返して、そそろになみたそもれ出ける。さて、帰り給ふまゝに、かくなとかたり給へは、姫君も侍従も、おやはかり、子はおもはぬ物そと、つねはおほせられしことの末かな。かやうにおほくのとし月をすくしなから、かくとも聞え奉らて、おほしなけかせ給ひつる、いかはかり神仏もにくしとおほすらん。 [page 18] あはれ、女の身はかりうらめしき物はとて、よにつらけに、の給へは、大将、まことに、ことはりなり。をさなき物も出きたれは、われも、いかはかりかはみせ奉らまほしけれとも、此をさなき人まても、おそろしさにこそ。さりなから、しらせ侍るヘきこともちかく成たり。しはしまたせ給へなと、こしらへ給けり。かくしつゝ過行ほとに、ひかるほとの女君いてき給ひけり。おもひのまゝなれは、おほしかしつきたまふこと、かきりなし。 [page 19] かやうに、なきみわらひみ、あかしくらすほとに、わか君七、ひめきみ五まてになり給ひけり。八月、はかまきといふことせんつゐてに、大納言とのにはしらせ奉らんとおほせられけるほとに、大将とのも大納言とのも、内にまいりあひて、又、まつ物かたりのつゐてに、八月十六日に、おさなき物ともに、はかまき仕らんとおもひ侍るなり。ことさらにまうけんと、の給へは、大納言、かしこまつてうけたまはりぬ。さりなからも、さやうのことに、まか〳〵しき身にてなときこゆれは、いかに [page 20] もおもひはからいて申なり。かならすと、の給へは、ともかくも、おほせにこそとて、その日にも成て、ゆかりあるかんたちめ、てん上人なと参りあへり。大納言も、すこしひくるゝほとに参り給へり。よろつに、あるめかしくて、くら人つかさのものなと、参りあひて、いとこと〳〵しきさまなり。ときにも成ぬれは、大将、大納言のなをしの袖ひかへて、うちへ引入給ぬ。ひめ君、侍従ちかくよりて、木丁のほころひより、のそけは、いかはかりかなしかりけん、わかくさかりにおはせしすかたの、あらぬさまにおとろへて、かみは雪をいたゝき、ひたいにしかいのなみをたゝみ、まなこはなみたにあらはれてひかりすくなく見え給へり。あなあさまし〳〵と、ふしまろひ給へり。あなあさまし〳〵と、ふしまろひ給ひけり。さて、わか君、ひめきみいたし、はかまのこしゆはんとて、うちみつゝ、袖をかほにをしあてゝ、うつふし給へり。やゝ久しく有りて、をきあかりて、の給ふやう、いはひの所には、まか〳〵しとは、されはこその申し物を。ひめ君の御ありさまの、わかうしなひておもひけなくむすめのおさなか [page 21] りしに、たかはせ給ふ所なく、そのむかしさへ思ひいてゝとて、しのひかねつるになん、ゆるさせ給へとてむせひ給へり。これを聞て、ひめ君、侍従、こゑもたてぬへき心ちそし給ひける。涙の色はうちきのたもとに、くれなゐそめの心ちするまてそ、なりにける。大将、これをみ給ひて、涙もせきあへす、みとみ、きゝと聞人、心あるも、心なきも、涙なかさぬはなかりけり。さて、ことゝも、はてぬれは、人々に引出物、さるヘきやうに、し給ひける、其内に、大納言とのには、こうちきの、なへらかなるを奉りたれは、あやしなから、かたにかけてかへり給ひぬ。大納言、かへるまゝに、まゝはゝにむかひて、大将の、われをむつましき物におほしてもてなし給ふ。うつくしかりつるわか君、ひめきみかな。あはれ、これを、わかまこともとおもはゝいかにうれしからまし。ゐ中人のむすめなれとも、さいはいある人かな。さても、そのひめ君の、わかうしなひて、おもひなけくひめ君おさなかりしに、さも似たまへるよ。あはれ、つねにみ奉らはやと、の給へは、まゝはゝ、三の君のもとへをはせし人なれは、そのゆかりとて、むつひ給ふ [page 22] こそ。哀れ、その公たちを、三の君のうちにまうけ給たらは、こゝかしこのために、めやすかりなん物を。あたら人のなといへは、むくつけ女、関白殿は、けすはらの子なれはとて、もてなし給はぬとそいひける。大納言とのは、こうちきのふりたりつるを、あやしとおもひて、とりよせてみ給へは、たいの君にきせはしめし時のうちきに似たり。おひのひかめやらんとて、うち返し〳〵、よく〳〵見給へは、たゝそれにてありける。その時に、むねさはきてかにしてもち給へは、我にしもえさせ給へるも、あやしとて、たゝ、さうしきニ三人はかりくして大将のもとへをはして、しんてんのすのこにゐ給へり。大将、いそき出給ひて、あしくに、これへとあれは、大納言、申されけるは、申いつるにつけて、よにおこかましく、なめけに侍れとも、よろつになつかしくをはしませは、まいりつるなり。ゆるさせ給へとて、きのふ、たまはりしこうちきは、我うしなひて候しものおさなくてきせそめしうちきにて侍るを。老のひかめにや侍らん、わかこゝろにかゝるままに、人めもしらすはしりまいりつるなりと申 [page 23] されけれは、此よし、ひめ君、聞給ひて、今々とまちゐ給ひけれは、大将のたまはぬさきに、ひめ君、侍従いそき〳〵出て、なみたにくれて、物をたにいひ給はねは、大納言、これをみて、こゝろも消かへる程なり。いかに〳〵とあきれゐ給へり。やゝ久しくありて心しつまりて、大納言、ひめ君をはそむきて、侍従にむかひて、くとき給ふやう、ひめ君こそあやしのおやとて、とてもかくてもと、おほして、音つれ給はさらめ、そこをは、いかはかりかはおもひきこえし。今まていのちつれなくて、めくりあひ侍れはこそけふはけさんに入、おもひ消なましかは、後の世まても思ひにて、よみちのさはりともなりなましか。わかなれるさま、岩木ならすは、見給へかし。あな、ゆゝしの人の心や。たゝ、命のみこそうれしけれ。あかしくらしかたくてつもりし月日、いくら程まてなりぬとかおもひ給ふ。あはれあはれ、人のおもひはなる物とて、うちなき給へり。大将、ひめ君、侍従、をゐ〳〵、はしめよりおはりまての事とも、かきくときつゝかたり給ひて、をろかならぬよし、の給ひける時に、よの有 [page 24] さま、むかしも今も、かゝるためし、ありかたくそおほえける。さて、日くれぬれは、大納言、かへり給ひてまゝはゝに、の給ふやう、いてや、たいの君にたつねあひて侍りつる。まことに、あやしの法師にくして、ひんかし山におはしけるとて、たゝ、うきはなからふへくもなしとて、まゝはゝ、あなうれしやな、いかやうにて、おはしつるそ。こまかにの給へ、おほつかなきにといへは、いかなる人の、うとましきことをたはかりにけるにか、おもひあまりて住吉まてまよひゆきたりけるを、大将との、物まいりのつゐてにもとめあひて、とし比くしてをはしましけれとも、世中のむくつけさにはゝかりて、かくとも、のたまはさりけるそや。あやしの法師にくしてありしにや。よく〳〵聞たまへとありけれは、さて〳〵とて、くちうちあきて、めしはたゝきて、かほあかくなして、いひやるかたもなくて、そゝろきゐたり。中の君たいらかにておはしましける事のうれしさよとて、よろこひ、あはれ〳〵、とく見奉らはやとて、おやなからも、うとましくそおほされ [page 25] ける。大納言、よろつ、くときたてゝ、身にそふへき物のくはかりくして、こゝろうき世には、ましろひも物うしとて、ひめ君のはゝ宮の、三條堀河なる所へそわたり給ひける。大将、このよしを聞給ひて、いかに、さふらふましきことなり。たゝ、もとのやうにておはしますへきよし、のたまへは、大納言との、申されけるは、あさましく、まとひありきけんものをとりおきたまひて、みせ給へは、この世ならす、くひめすとも、いなみとも、おもふへきにあらす。これは、いかにの給ふとも、かなふましきよし、申給。ひめ君も、まめやかに、いろ〳〵とゝめ申給へとも、聞入給はて、わたり給ひけれは、三条へ、さま〳〵の物ともたてまつり給ひて、人々も参りあへり。さても、ひとりおはすへきにあらす。いたはしきとて、大将のをはに、たいの御かたと申人をそむかへさせ給ひける。そのむかし、たいにすみける人々、さなから大将のもとにまいりて、よろつ、すきにしかたのことゝもかたりいてゝ、なきみわらひみあかしくらしける。其中にも、心よせのし [page 26] きふは、またなきものにそおほしける。関白殿よりはしめて、よろつの人々、ゐなかの人のむすめとしり給ひつるほとに、はや、あせちの大なこんとのゝ、宮はらの御むすめとて、さもありかたきなからひとて、人々もいひあひけるとかや。此ことをきゝて、兵衛のすけ、中の君ともかれ〳〵になりにけり。さるまゝに、中の君も、おやなから、うとましとそおもひける。されは、人の遠さかるも、ことはりなりとて、ふたりなから、ねをのみそなき給ひける。ひめ君、このよしを聞給ひて、むつましかりし人なれはとて、むかへたてまつりて、過にしかたの、よのふしきなる事とも、かたらひあかしくらしたまひけり。大将も、よきことゝて、大事のことにそおもひたまひける。 [page 27] とし月ゆくほとに、大将とのにはちゝ、関白ゆつり給ひぬ。いよ〳〵、すゑの世、たのもしくそ侍りける。わか君は、けんふくせさせたまひて三位中将とそ申ける。ひめ君は、十八にて女御にまいり給ひける。侍従は、おとな女にて、よろつに大事の人にそおもはれて、内侍になりぬ。みきく人、うらやみあへり。大将、ひめ君、すゑまてはんしやうして、めてたくそおはしける。さて、まゝはゝ、みきく人々にうとまれ、あさゆふは、ねをのみなきたまひて、世中おとろへて、つゐにはか [page 28] なくなり給ふ。むくつけ女は、あさましきありさまにて、まとひありきけるとかや。むかしもいまも、人にはらくろなる人は、かゝることなり。これをみきかん人々は、かまひて人よかりぬへきなりとそ。 |
| 資料番号 | [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国790/[登録番号2]文理4551 |

IIIF Curation Viewer
Universal Viewer
Mirador