doi : 10.15027/da76
やしまのさうし
| License |
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| License URI | https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1 |
| Holder | 広島大学 |
| Title | やしまのさうし |
| Title pron. | ヤシマノサウシ |
| Physical size | 1冊 |
| Binding | 和装 |
| Printing | 写本 |
| Location | 広島大学図書館 |
| Collection | 奈良絵本 室町時代物語 |
| Description1 | [あらすじ] 山伏姿で平泉に下向する判官一行が、信夫の里で宿を借りる。応対の尼は義経の従者、佐藤継信(次信)と忠信の母親であった。弁慶が、義経の身代わりで射られた継信とその仇を討った忠信の最期を語り、義経が身分を明かした。母は歓喜して二人の形見を受け取った。 |
| Description2 | [解題]広大本は1冊本であるが、明らかに物語途中から始まっているため、本来は2冊本であったと思われる。現存部分は「舞の本」のひとつである「八島」の後半部分に酷似しており、同一の物語と考えられる。「八島」は、室町期の語り物芸能であった幸若舞曲の台本を読み物に転用したいわゆる「舞の本」に入っている。「舞の本」は寛永頃に絵入り版本として出版され、広く流布した。その中でも「八島」は新刻本も出されるほどの人気作であった。広大本はおそらく版本を書写し、奈良絵本に仕立てたものと考えられる。物語後半、弁慶が継信・忠信兄弟の最期について語る部分のみが現存する。なお、謡曲にも同内容を扱った「八島」がある。 参考文献 【テキスト】1新日本古典文学大系『舞の本』/2『寛永版 舞の本』/3佐藤彰「内閣文庫蔵明暦刊「舞の本」-「つきしま」(続)「やしま」」(『静岡県立大学短期大学部研究紀要』1号、昭和63年3月)/4佐藤彰「内閣文庫蔵明暦刊「舞の本」―「やしま」(続)」(『静岡県立大学短期大学部研究紀要』2号、平成元年3月) など。 【研究文献】1浅野日出男「やしまのさうし」(『山陽女子短期大学研究紀要』第17号、平成3年3月)/2添田美千恵「八島語りの一考察―継信、菊王戦死話を中心に―」(『駒沢大学大学院国文学会論輯』13号、昭和60年2月)/3須田悦生「特集・中世の伝承―立ちあらわれる文化の基体 芸能と伝承―能・幸若舞・神楽」(『国文学 解釈と教材の研究』第48巻11号、平成14年9月) など。 |
| Reprinting | [page 2] 「やしまのさうし」 ねんかうはけんりやくくはんねん、ころは三月中しゆん、四こくさぬきのやしまをとおりしとき、けんへいのかつせんまつさいちうとみゆる。そのとき、やまふし六人候ひしか、ニ人は見んといふ、三人はとおらんといふ中にも、このほつし、人はなにともおもわはおもへ、かやうの事をみおきてこそ、くまのゝかへりて人にもかたらはや、とおもひ、おひをおろし、こまつのゑたにかけおき、はるかのなきさにくたつて、けんへいのかつせんを、しんつ〳〵とけんふつす。 [page 3] 日をきつと見て、あれはさるのなかはの事なるに、おきの御さふねの中よりもしやうせん、一さうさゝめかいておしよするを、みれは、人三人のつたりけり。一人はかんとり、一人はわつは、いま一人は大しやう。大しやうとおほしき人のはたには、なにおかめされけん、大くちのそはたか〳〵とおつとつて、うのはなおとしのよろいをめしなし、うちゑほしおつかうて、しゝあやたゝんて、はちまきにむんすとしめ、ひやうたうつくり、五人はりのまん中にきりて、やはかりおつとつてそうもんのなきさにふねをさゝめいて、出させらるゝ。くかちかくなりしかは、ふなはりにつつたちあかり、大おんあけて、なのるやう、たゝいまこゝもとにすゝみ出たるつわものを、いかなるものとおもふらん。一ほんしきふきやう、かつらわらのしんわうに九たいのかういん、かとわきのしなん、のとのかみのりつねなり。そうもんのなきさにとゝにおひてむかふといへとも、いまたたうこくの大しやうにけんさんせす。とうこくの大しやうにけんさんとなのられけるけんへい、なりをしつめ、 [page 5] みやうしなのりをたつしかにきく。またけんしのちんよりも大しやうとおほしき人のすゝんて出させたまふ。その日の御しやうそく、いつにもすくれて、はなやかなり。はたにはなにおかめされけむ、あかちのにしきのひたゝれに、ひをとしのよろひをめし、おなしけの五まいかふとに、くわかたうつて、たつかしらすへたるを、いくひにめされ、こんねんたうのこしのもの、ニしやく七すんこかねつくりの御はかせ、あしをなかにむすんてさけ、廿四さいたるきりうのや、はつたかにとつてつけ、三人はりのまん中に、きりよこたへたけ七きはかりなるまつくろなるむまに、きんふくりんのくらおかせ、御みかろけにめされたつしか、みかたのちんをは、しんつ〳〵とあゆませ、いてあひちかくなりしかは、あふみふんはり、くらかさにつつたち、あかり大おんあけて、なのられたり。たゝいまこゝもとへすゝみいてたるつわ物を、いかなるものとおもふらん。こともおろかや、せいわてんわうに十たいのかうゐん、けん九郎よしつねなり。そうもんのなきさに、とゝにおひてむかふ [page 6] といへと、ものととのとやらんに、けんさんせす。のととのならは、はなめつらしう、けんさんとそなのられたり。のととのきこしめされて、大しやうの御めにかゝりたるしるしなくては、かなふまし。こひやうにては候へとも、申さし。一すちたてまつらんに、いつくとやつほをうけたまわつて、つかまつらん、とありしとき、けんしの大しやう、のかれかたくやおもわれけん、あしよりもくれなひに日出したるあふき、ぬきいたし、やころはまつほとそうそこゝのほとをあそはせ、とむないたをほと〳〵とおとつるゝ。あつはれ、大しやうの御いのち、あようくみへさせたまひたる所に、またけんしのちんよりも、ふしなわめのよろひおき、あしけのむまにのつたるむしや、一きんかけいて、きみのやおもてに、かけふさかつて、大おんしやうにて、なのるやう、たゝいまちんたうにすゝみいてたるつわものを、いかなるものとおほしめす。あふしうのちう人、にさたうしやうしかニ人のこ、あにのつきのふなり。のととのゝ大やを、まつたゝ中にうけとめて、しんてゑんまのちやうのうつたへにせん、とよはわつたり。のととの此よし [page 7] きこしめし、あつかうなるつわものかな。一きたうせんとはかゝるものをいふらんに、こゝろさしのさふらいをのりつねかてにかけいおとしてあれはとて、まけうすいくさにかつへきにてもあらす。又たすけてあれはとてかたうすいくさにまくへきにてもあらはこそ、こゝろさしのさふらいをたすけてこそとおほしめし、はけたるやをいゆるされたり。いしかつつるところに、わつはのきくわうまるかさゝへ申けるやうは、なふ御ちやうにてはかへとも、つきのふたゝのふはかうのものにて候そや。それをいかにと申に、一のたにのおちあし、やしまのおちあしにも、こゝにてはつきのふ、かしこにてはたゝのふとなのつて、せんてい、によいんの御さふねをもおそれす、しさひやをいかけしらうせき人にて候そや。そのうへくんちんにて、かたき一きうたるれは、みかたせんきのつより、みかた一きうたるれは、かたきせんきのつより、とうけたまわつて候そや。そのうへ、かのものニ人はいこくのはんくわいちやうりやうをも、あさふくほとのしんにて、さういくさかみの御たむけにはや [page 8] 一やそうとさゝへてあり。のととのきこしめし、あふ一しゆも申たるきくわうまるかな、そのきにてあるならは、なかさし一すちとくせんと、十五そくみつかけつるきのやうにみかいたるを、五人はりにからりつかい、もとはつうらはつひとつになれ、ときり〳〵とひきしほり、まちをこふしにひつかけて、ゑいやつと、かつてうつたるは、たうつきなんとのことくなり、一ちんにすゝんたる。さてもつきのふかむないたに、はつしとあたり、ちけふりかはつとたち、おしつけにくつとぬけにけり。むさんやつきのふ、さいこはよかりけり。たうのやをいんすとて、ゆみとやをうちつかい、うちあけ、ひかんあふはなさんと、二三と四五としけれとも、せいひやうの大やに、きものたはねをとおされて、なにかはもつてこらうへき。ゆみとやをからりとすて、ゆむてのあふみ、ふみけはなつてめてへかつはとおちにける。いまおもひあはすれは、御みの御しそくかいたわしさよ、とかたりけり。 [page 10] ニ人のよめ、三人のまこにかうもろともに、一とにわつとさけひたまへは、きけいをはしめたてまつり、十三人の人々もやしまのいそのかつせんを、たゝいまみるこゝちして、すゝかけのたもとをしほられける。にかうなみたをとゝめ、つきのふはそのてにてはかなくなつてさふらうか、さておと〳〵のたゝのふはなにとなりてさふらうそ。はうくはんきこしめして、なを〳〵さきをかたつてきかせよかしとおほしめし、むさしかかたを御らんすれは、へんけいやかてこゝろあらむさんや、つきのふそのゝちとをあさの事なりし。にかふとのしのひのおかきれて、たふさはなみにゆられぬ。かゝりけるところに、のととのゝわつは、きくわうまる、此よしを見るよりも、なにさまつきのふかくひとつて、けんさんにまいらんと、ふねより下にとんており、うちものかさしてよつたりけり。たゝのふこのよしみるよりも、一ときなりとも、それかしかあらんほと、あにのくひへいけかたへわたしては、ゆみやのちしよくとやおもひけん、四人はりに十四そく取て、からりとうちつかい、よつひいてひやうといたあ [page 11] らむさんや、きくわうまるかいさみにいさんておりたつたるひさのふしに、したゝかにたつ。大しのてなれは、うけもあへす、いぬいにたうとふす。たゝのふこのよし見るよりも、なにさまわつはかくひとつて、あにのきやうやうにほうせんといふまゝに、うちものぬいてさしかさし、もみにまうてそかゝりける。のととのこのよし御らんして、一ときなりともそれかしかあらんほと、わつはかくひけんしかたへわたしては、ゆみやのちしよくとおほしめし、ふねよりしもにとんており、きくわうかわたかみつかんて、ふねのうちへゑいやつといふてなけいれたり。あらむさんや、きくわうまるこのてにてかんひやうするならは、しぬまちかりつるてなれとも、大ちからにてふねのせかいにしたゝかになけつけられ、かうへみちんにくたけて、ついにはかなくなつたりけり。ことかりそめとはおもへとも、けんしにさふらいうたるれは、へいけにもらうたうしんたりけり。のとのかみのりつね、このよしを御らんして、すきまかそへのたゝのふに、たゝ [page 13] 中をとおされ、あしかりなんとおほしめし、おきへふねを出させらるゝ。かとわきのへいさいしやうのとのかみのりつねこそ、くかのいくさにしまけてあり。のりつねうたすな、つゝけつわもの、とおゝせけり。うけたまわると申、つくし大みやうに、大ともしやきやう、きくちはらたまつらたう、これたう、これすみ、へつきやますみ、此人々をさきとして、七白よきにはすきさりけり。ふね一めんにおしならへ、むまともをはかいしやうにおつひて、ふなはたにひつつけ〳〵、さゝめかいておよかせらるゝ。くかちかくなりしかは、こまをひきよせ〳〵ひた〳〵とうちのりて、一まいはきのわたりたてをこまのかしらにつきかさし、七白よきかむれ、たかまつへ一とにさつとかけあけたり。けんしニ白よき、おもてのひろきてうたて一めんにつかせ、やふすまつくつて、さし取ひきつめ、さん〳〵にいたりけり。へいけのくんひやうともは、ひとさゝへもさゝへすしてなきさへさつとひいたりけり。あく七ひやうへこれを見て、にくし、きたなし、かへせ、もとせ、 [page 14] とおめきさけんて、かけにけり。けんしニ白よきやたねつくれは、うちものゝさやをはつし、わつといひてはかけあわせ、けんしのおわるゝときもあり、へいけのおわるゝときもあり、おうつまくつつかけつもといつ、さるの中はよりとりのくたりまて、かけあひのかつせんに、けんしへいけつかれつゝ、あひひきにさつとひいたりけり。さいたうのむさしはうか、此よしを見るよりも、それかし一かつせんつかまつり、けんさんにまいらむとこのむ所のなきな、たみつくるまにまはひて、さいたうのへんけいか、たゝいまかくるなり。へいけのくんひやうとも、にくし、きたなし、かへせ、もとせ、とおこへをあけてそかけにける。へいけのくんひやうとも、へんけいがかゝるを見て、中をあけてそとおしける。もとよりへんけいかかたきにあひ候へ、はやき事ゑんかうのこすへをつたひ、あらたかゝとやをくゝつて、きしにあふたかことくなり。たひこくのしやうちくわいは、かんこくのせきをやふつて、てきにとにあふかことくなり。もとよりむさし、うてのちからは [page 15] おほへたり。なきなたのかねは、よしなきなたををつとりのへ、むかふものゝまつかうにくるものゝおしつけ、ほろつけ、たかこしとう中くさすりのあまりを、あたりをさひわいにはゝめかいてそ、きつたりけり。てもとにすゝむつわものを、三十六きはら〳〵ときりふせ、とうさいゑはつとおつちらし、あふみかたのちんへ、ひいたりけり。むさしはうかありさまは、たゝはんくわいもかくやらん、へいけのくんひやうともは、ふねよりあかりしときは、七白よきと見へしかとも、ニ白よきはかりにうちなされ、おきへまはらにさつとひく。けんしニ白よきもハ十三きにうちなされ、うりうむさんにあかり、おの〳〵ちんとり、しつまりけれは、いぬいのこくにそなりにけり。はうくはんむさしをめされ、あふしうのたゝのふは、いつくにあるそ。くしてまいれ。へんけいうけたまわつて、おつとこたへておまへをたち、このへんにあふしうのさたうとのやおはします、たゝのふはいつくにあるそ、大しやうのめしのあるに、御まいりあれ、 [page 16] とたからかによはわる。あらむさんや、たゝのふひるしやきやうつきのふのておいぬるとみるからに、かつせんこゝろにそます、とあるやまのはにそなたはかりを見をくり。こゝろほそけにてたつたりしか、大しやうのめしとうけたまわり、むさしとつれて御まへにかしこまる。ほうくはん御らんして、いかにたゝのふ、あにのつきのふかゆくゑをはしらぬか。たゝのふうけたまわつて、さん候、あにゝて候もの、ひるておいぬると見へしかとも、かけあひのかつせんに、ひまなくて、そのゆくゑをもそんせす、と申。はうくはんきこしめされて、けに〳〵それはさそあるらん。いまたこんしやうにもあるならは、とふへきしさいあまたあり。またしゝてもあるならは、きやうやうよきにすへし。はやとく〳〵とおゝせけれは、たゝのふうけたまわつて、あらありかたや、たとへ御ちやうくたらすとたつねたくおもひしにまして、御ちやうのうへおつとこたへて、おまへをたつて、めのとにしのふの十らうみつたうをさきとして、はるかのな [page 17] きさにくたりけり。ころは三月廿日あまりの事なれは、月はてすしてみち見へす。なみたそみちのしるヘなり。たちをつへにつき、はるかのなきさにくたりつゝ、ひるのいくさははこのへんそとおもひて、むれたかまつのにし、ひかしすさきのたうのきた、みなみなきさにそふてたつねけり。このへんにあふしうのさたうとのやおはします、つきのふやまします、としつかによふてそ、とおりける。いくさみたれの事なれは、ておいしにんのふしたるは、さんのみたしたことくなり、ておいとものにようこへみゝにふれてそあほれなり。のりこへ〳〵たつぬるに、いとゝあはれそまさりける。むれたかまつの事なれは、すさきによするなみのおとは、むまちとりのともよふこへ、われをとふかとおほしくて、こゝろほそさはまさりけり。あらむさんや、つきのふは、大事のておひてありけるか、おと〳〵のたゝのふに、さいこのなこりやおしかりけん、しにもやらす、してあけふねのあたりに、けにんのおとこにかんひやう [page 18] せられていたりしか、たゝのふかこへときゝ、いそうつなみともろともに、たそよふとこそは、こたへける。たゝのふ、なのめによろこふて、する〳〵とたちよつて、御ては大しにましますか、御こゝろはなにと御さ候そ、つきのふきひてわかみの事をはいはすして、みかたはいかほとにうちなされたるそ、大しやう御てをおいたまわぬか、さておことはてをおわぬか。たゝのふうけたまわり、さん候、みかたはわつか八十三きにうちなされて候。大しやう御てもおいたまはす。それかしもてをおはす。御こゝろやすくおほしめせ。つきのふきひて、さてはうれしひものかな、そのきにてあるならは、いまたこんしやうにいきのかよふとき、大しやうの御めにかゝりたいそ、いそひてくしてまいれ。たゝのふうれしさに、すさきのたうよりも、やりとおいそきとりよせ、つきのふをかきのせまいらせて、さきをたゝのふかきけれは、あとをしのふそかきにける。なみたそみちのしるヘなる。むさしとのひたちとのかめいかたいかするかとのゆみとりと申は、けふは人のうへ、あすはわかみのうへそかし。 [page 19] いさや、さたうをみつかんと、はるかのなきさにおりくたり。つきのふをかいしやくして、むれたかまつにあかりけれは、ひかしのやまのはに月ほの〳〵と出にけり。はやつれてまいりたるよしを申。はうくわんきこしめされて、ちかうかけとの御ちやうなり。うけたまわると申て、御さちかくかきよせけれは、かたしけなくもはうくはん御さをよせさせたまひ、つきのふかかうへを御ひさのうへにかきのせたまひては、大しなるかこゝろはなにとあるそ、こんしやうに [page 20] おもひおく事あらは、たゝいま申せ。みやうにちにもなるならは、あふしうへ人をくたすへし。いかに〳〵とおほせけれとも、とかくの御へんしをも申さす、たゝうちうなつきたるはかりにて、とうのうちににようこへありわたちゝふさうにして、あらむさんや、つきのふさこそこゝろかふなるむしやとは申なから、さいこちかつきぬれは、ちからなし。ふひんなるしたいかな、とておの〳〵なみたをそなかされける。あとにてかいしやくつかまつるおと〳〵のたゝのふ、このよしを見るよりもておいにちからをつけはやとおもひ、あららかなるこへをあけ、あらゆいかいなのつきのふの御ふせいやたとへ事にてはなけれとも、かまくらのこん五郎かけまさは、くりやかわのしやうにて、とりのうみのや三郎にゆんてのまなこをいさせ、そのやをぬかておりかけ、三日もつてまはり、たうのやをいあふせてこそいまかまくらの御りやうのみやといわゝれたまふ、とうけたまわる。それほとこそはおわせすとも、かほとのほそや一すしにやみ〳〵とよはりたまふか、かたしけなくも、まくらかみは三たいそう [page 21] おんのしうきみ、ゆんてはちゝふのしけたゝ、めてはわたのよしもりなり。あとにてかやうに申は、おと〳〵のたゝのふなり。なに事もか事をも、おまゑて申させたまへ、とてさしもにかうなるたゝのふといまのわかれのかなしさに、うてのくさりをぬらしけり。つきのふきいて、なにと申そ、たゝのふかまくらのこん五郎かけまさは、くりやかわのしやうにてとりのうみのや三郎にゆんてのまなこをいさせ、そのやをぬかてたうのやをいおふせけるよな、あふそれわしやうしのてなれはこそ、三日もつてまわりつらめ。かけまさにつきのふかおとるヘきにてあらねとも、のととのゝ大やはたいこくまてもかくれなきに、たゝ中をとおされつきのふにてあれはこそ、いまゝてもなからへておまへてものを申せ、ゑいなに事も〳〵みないつわりとなるそ、とよくにへかた身をくたすへし。はたのまもりをはらうしてましますちゝはゝのニ人に一人もしなからへてましまさは、ゆきみのまとのおり、たけの世はさかさまのことなれと、これをかたみにまいらせん。ひんのかみをは、わかとも [page 22] かはゝにとらすへし。むちとゆかけをは、ニ人のわかにとらすへし。たちをは、しのふにとらするそ。よろひは、けきれしたりとも、わとのとつてきてつきのふにそふたとおもふへし。かまへてたゝのふよつきのふ、うき世にあるように、こゝろつかいをつかまつり、はうはいににくまれ申すな、ゑおゐとま申て、わかきみいとま申て、はうはいたちあらなこりおしのたゝのふや、かうしやうにねんふつと十へんはかりとなへしか、かすかなるこへをあけ、むさしとのはいつくにそ、おと〳〵のたゝのふに [page 23] めかけてたへ、といひすてゝ、おしむへし、おしかるヘし、あしたのつゆときへにけり。上下はんみん、おしなへてあはれととわぬ人はなし。はうくわんふひんにおほしめし、たゝいまきやうやうすへけれとも、ひるはヘいけのまけいくさにてあるあいた、もしようちにやあるらんとようしん、ひまもましまさす。あけけれは、しとのたうちやうのひしりをしやうし申、つきのふをきやうやうしたまふ。あらむさんや、つきのふとゝしよまうせし事をかなへぬ事のむさんさよ、しよもうといつはへつのしさいにてあら、すあれに候大ゆふくろかこと、一とせよしつねあふしうへくたり、さたうひてひらをもようし、十まんよきにちやくとうつけ、しやうらくのとき、ひてひらにうたう大くろ小くろとて、ニひきのむまをひそうしてもつこくろといつしは、あのむまよりたけはつくんにのほつて候ひつれとも、こゝろかすこしおくれたるにより、こくろとなつく。大くろとはあのむまの事、ひてひら申せしは、それゆみとりのせんちやうにのそむて、かうみやうきわむる [page 24] こと、むまものゝくにしくはなし。このおむまにめされ、御よをひらかせたまへ、とてものゝく一れうおしそへて、それかしにゑさす。なにかしかてにわたり、のりこゝろよし、あしのはやきことは、とふとりのことし。かくのなによそへ、せいかいはとなつくかまくらとのゝいけつきするすみかはとのゝとらつきけ、なにかしかせいかいはとて、わてうにうへこすむまはなし。けんりやくくはんねん正月廿日に、うちかわをわたし、同ニ月七日に一のたにてつかいかみねをおとし、へいけのくびおゝくとつて、おうちをわたし、ゐんの御めにかけ、大ゆふのはうくわんになされ申す。そのときむまもけんしにきちしのむまなれはとて、かたしけなくも、りんけんにて、たゆふくろにふする。されは、ゑんきのみかとのとき、しらさきをいたきとつて、こいになされしためしこそ候へ、むまのたゆふつかさためしまれなり、とて大ゆふくろにそふせられけり。あらむさんや、つきのふたうし四つつかのへんにて、なにかしかあたりへこまかつし〳〵とあゆませ、よせあつはれ御むま候や。おく [page 25] にてみまいらせしより、たけはつくんにのほつて候、このおむまをたまわつて、きみのまつさきかけて、うちしにつかまつらんする。いのちはつゆちりほともおしからし。この御むまをたまわつて、ととゝしよまうせしかとも、つきのふにおとらぬちうのふしおたしぢよのうらみをきしとおもひて、いまゝてとらせぬ事のむさんさよ。さいこなれはたゝのふにひきたうこそはおもふらめ。よし〳〵おんをみておんをしらさるは、きちくほくせきにたとへたり。いて〳〵よしつねも大ゆふくろをひきて、いのちのおんにほうせん、とかたし [page 26] けなくも、御てを大ゆふくろかみつつきにかけさせたまひ、つきのふかしかいのまわりを、かなたこなたゑひきまわし、そのゝちたゝのふにたまわりぬ。けにやつきのふこの世にてほしし〳〵とおもひしねんやつうしけん、むまはきたのものなれは、ほくふうにいはひて、しらあわかうて、ついにむなしくなりにけり。いけのものとも、これをみて、まさしくつきのふたまわりて、めいとまてのるよといはぬものこそなかりけり。つたへきくたいこくの大そうくわうていか、ひけをきつて、はいにやきくわうしんにあたへたひにきちをいやしめ、せんしをなてしかは、めいわきによつてかろし。いのちはおんのためにつかわす、いかにもそのみのころさるゝ事をいたます、ほんちやうのきけいかちうあるさふらいに、太ゆふくろひかれたり。これをみる人いよ〳〵いさみあるヘしとかんせぬ人はなかりけり。あくる日のかつせんに、けんし七きにうちなされ、しとのうらとかや、まつかはなといふところにちんとつてまします。くまのゝ [page 27] へつたうたんそう一せんよきのせいにて、みかたにまいらるゝ。けんしの御せい一せんよきになりたまふ。おこるヘいけをこと〳〵くたいらけ、三しゆのぢんきことゆへなくみやこへかへしたまひける。おとゝのたゝのふよしのやままて御ともす。よしのやまにて大しゆたちのこゝろかわりのありしとき、そのときたゝのふはうくはんつかさときせなかを申たまわり、一人とゝまり、はうくはんとなのりて、よしのほうしをまちうけ、さん〳〵にかつせんし、そこにてもうたれすし、みやこへののほつてはらきつて、むなしくなる。この人々のことならは、こんしやうのたいめんはおもひもよらぬ事なり。ねんふつたまへとて、むさしとのゝおひよりもつきのふのかたみ、たゝのふのかたみをとりいたしにかうにこれをたてまつる。にかうかたみとりあけ、むねにあて、かほにあて、りうていこかれかなしむ。なにゝたとゑんかたもなし。はうくはん御らんして、こゝろつくしにいつまてつゝむへき、とおほしめされけるあいた、これこそいにしへのけん [page 28] 九郎よしつねと御なのりありければ、にかううけたまわつて、こともの事はさておき、三たいさうおんのきみをおかみ申こそなけきの中のよろこひと、よろこふ事はかきりなし。これにしはしとゝめ申、ひらいつみへつかいをたてにけり。ひてひらなのめによろこふて、ちやくしにしきとつきやすひらをさきとして、三せんよきのせいにて、御むかいにまいらるゝ。ひらいつみへいれ申、ころも川 [page 29] たかたちと申ところに、しんさうに御しよをたて、やなきの御しよと申て、あひたさかたつかるかつほうそとのはまひわうはんをかまへていつきかしつき申す。かのひてひらしんちうきせん上下おしなへ、かんせぬ人はなかりけり。 |
| Number | [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2593/[登録番号2]文理10532 |

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