doi : 10.15027/da73
はちかつき
| License |
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|---|---|
| License URI | https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1 |
| Holder | 広島大学 |
| Title | はちかつき |
| Title pron. | ハチカツキ |
| Author | [作者未詳] |
| Publish year | [出版年未詳] |
| Vol./Num. | 上 |
| Physical size | 1冊(全3冊); 縦30.35cm×横22.5cm |
| Binding | 和装 |
| Printing | 写本 |
| Location | 広島大学図書館 |
| Collection | 奈良絵本 室町時代物語 |
| Description1 | 上・中・下三冊、箱入。うち下巻は題簽が剥落している。特大本。料紙は、金泥で諸処に秋草等を描いた鳥の子紙を使用。表紙は、灰色がかった地の紙が露出しており、素朴な雰囲気であるが、薄い茶褐色の布片が多数付着しており、元来は布地張りであったことを窺わせる。奥書はなく、書写者・書写年代は不明。書写段階では挿絵も計画されながら、叶わなかったらしく、数丁ごとに、空白の面が残されたままになっている。 [あらすじ] 備中守実高の妻は、死際にその姫の頭に鉢を被せる。継母に捨てられた姫は、宰相に求婚され、脱げた鉢から宝物が出てきて宰相の妻となる。のちに姫は、出家した実高と長谷寺で再会する |
| Description2 | [解説]数ある御伽草子の中で、もっとも有名な話の一つ。申し子譚と継子譚、二つの話型を具備しており、類話も多い。民間伝承の昔話を草子化したものと見るのが一般的であるが、直接の典拠は明らかでなく、昔話「姥皮」によったとする説(松本隆信)、「姥皮」型の類話からモチーフを抽出したとする説(『日本昔話大成』)がある。しかし、一方で、草子化された文献は、口承の昔話に先立つものであるとする説もあり(黄地百合子)、先後は不明である。また、物語の舞台に近い大阪府寝屋川市では地元の伝説として伝わっており、成立事情ははっきりしていない。伝本は、御巫(みかんなぎ)本系統と、流布本系統とに大別され、広島大学蔵の2本は、いずれも流布本系統の本文をもつ。御巫本系統は、冒頭部で、はちかづきが長谷観音の申し子であることを長々と述べるのが特徴で、御巫清男氏旧蔵本のほか、奈良絵本数点が確認されるにとどまるが、流布本系統は、きわめて多くの本が残っており、広く読まれていたことが知られる。 参考文献 【テキスト】1日本古典文学全集『御伽草子集』(流布本系、市古氏蔵版本)/2日本古典文学大系『御伽草子』(流布本系、上野図書館蔵版本)/3『室町時代物語集』第三巻(流布本系、清水本/御巫本系、御巫本)/4『室町時代物語大成』第十巻(流布本系、赤木文庫本・寛永絵入本) ほか多数。 【研究文献】1市古貞次『中世小説の研究』(東京大学出版会、昭和30年)/2友久武文「『鉢かづき』の原話」(『中世文芸』9号、昭和 年12月)/3岡田啓助「『鉢かづき』成立についての一考察」(『和洋国文研究』2号、昭和39) ほか多数。 『鉢かづき』に関しては、典拠や成立事情、本文の問題など、さまざまな面から研究が進められており、テキスト・研究文献とも非常に多い。 |
| Reprinting | [page 2]はちかつき上 中むかしのことにやありけん、河内の国かた野のへんに、ひつちうのかみさねたかといふ人まし〳〵ける。かすのたからをもちたまふ。あきみちて、ともしき事ましまさす。しいか詩哥、くはんけんにこゝろをよせけるか花のもとにては、ちりなん事をかなしみ、哥をよみ、しをつくり、のとけき空をなかめくらし給ひける。きたの御かたは、こきん古今まんえう万葉、伊勢物かたり、数のさうしを御らんして、月のまへにて夜をあかし、入なん事をかなし [page 3] み、あかしくらし給ひつゝ、こゝろに残る事もなし。ゑんあふのむすひ、へたつる事もましまさす。おもふまゝなる御中なるに、御子一人もなし。朝夕かなしみ給ひしに、いかなることにや、姫君一人まふけ給ひて、ちゝはゝの御よろこひ、申はかりはなかりけり。かくていつきかしつき給ふ事、かきりなし。まことにめてたき御事ともなり。 [page 4] 明くれ、くわんをんをしんし申されけるほとに、はせのくわんをんにまいりては、かの姫君のすゑはんしやうのくわほうあらせ給へとそ、いのり給ふ。かくて年月をふるほとに、ひめきみ十三と申せし年、はゝうへ、れいならすかせのこゝちとのたまひて、一日ニ日と申せし程に、今をかきりに見えけれは、姫君をちかつけて、みとりのかんさしをなてあけ、あらむさんやな、十七八にもなし、いかなるえんにもつけて、心やすく見をき、とにもかくにもならすして、いとけなきありさまをすてをかん事あさましさよと、なみたをなかし給ふ。ひめきみももろともに、なみたをなかし給ひける。はゝうへは、なかるゝ涙をおしとゝめ、そはなる手はこをとりいたし、中にはなにをかいれられけん、よにおもけなるをひめきみの御くしにいたゝかせ、そのうへに、かたのかくるゝほとのはちをきせまいらせて、はゝうへかくこそゑいし給ひける。 さしもくさふかくそたのむくわんせをん [page 5] ちかひのまゝにいたゝかせぬる [page 6] かやうにうちなかめ給ひてついにむなしくなり給ふ。ちゝおほきにおとろき、なき給ひて、いとけなきひめをは、なにとやすてをき、いつくともしらすかくなり給ふと、なきたまへと、かいそなき。かくてあるヘきならねは、なこりつきせす思へとも、むなしき野へにおくりすて、花のすかたもけふりとなる。月のかたちは風となり、ちりはつるこそいたはしけれ。かくてちゝこせん、ひめ君を近付参らせて、いたゝき給ひたるはち、とらんとしけれともすいつきてさらにとられす。父はおほきにおとろきていかゝはせん、はゝうへにこそははなれまいらせめ、かゝるかたはのつきぬることのあさましさよと、なけき給ふ事かきりなし。かくて月日をたてけれは、あとのきやうやうとりをこなひ給ふ。思ひは、姫君の御まへにこそとゝまりける。春はのきはの梅かえの、さくらはさきて、木すゑまはらの青葉とそ、なこりおしくは思へとも、又こん春をまちてさへ、月は山はに [page 7] いりぬれと、こん夜のやみとへたつれと、又こんタへに出給ふ。わかれし人のおもかけ、ゆめちにたにもさたかならす。いつの日の、いつのくれにかわかれちを、いかなる人のふみそめて、うつゝにもあふ事なからん。おもひまはせは小車の、やるかたもなきふせゐかなと、よそのみるめもあはれなり。さるほとに、父御せんのいちそく、したしき人々よりあひて、いつまておのこのひとりすみかたしと、このそて枕、なけきくとき給ふとも、そのかいよもあらし。いかなる人をもかたらひて、うきにわかれしなこりをも、なくさみ給へとすゝめられ、さきたつ人はとにかくに、残るうき身のかなしさよと、おもひこともよしなしとて、ともかくも御はからひとありけれは、一門の人々よろこひて、さるヘき人をと尋、もとのことくむかひとり、うつれはかはる世中のこゝろは花そかし。秋のもみちのちりすきて、そのおもかけは、ひめ君はかりそなけき給ひける。かくて、かのまゝ母、この姫君を見 [page 8] 奉りて、かゝるふしきのかたは物、うきよにはありける事よとて、にくみ給ふことかきりなし。扨まゝはゝの御はらに、御子一人出きたまへは、いよ〳〵このはちかつきを、みし、きかしと、なみのたちゐの事まても、そら事のみはかりのたまひて、つねにはちゝにさんそう申。はちかつきは、あまりやるかたなきまゝに、母の御はかへ参りて、なく〳〵申させ給ふやう、さらてたに、うきにかすそふ世中の、わかれをしたふ涙川。しつみもはてすなからへて、あるにかひなきわか身そとおもふに、いとゝふしきなるかたはのつきぬる事のうらめしさよ。まゝ母御せんの、にくみ給ふもことはり成。したしきはゝうへにすてられまいらせ、わか身、何ともなりて後に、父御せんいかゝ御なけきのあるヘきとおもふはかりを、心くるしくおもひしに、今の御はゝに姫君いてき給へは。はや、思召おかん事もなし。まゝはゝこせんのにくみ給ふゆへ、たのみしちゝ [page 9] おろか也。いまはかいなきうき身の命、とくしてむかいとり給へ。同しはちすのゑんとなり、心やすくあるヘきと、りうていこかれてかなしみたまへとも、生をへたつるかなしさは、さそとこたへる人もなし。 [page 10] まゝはゝこのよしきゝ給ひて、はちかつきか、はゝのはかへ参りて、とのをも、みつからおやこをも、のろうことこそおそろしけれと、まことをはひとつもいひ給はす、そらことはかりを、ちゝにたひ〳〵いひけれは、をとこのこゝろのはかなきは、まことゝ思ひ、はちかつきよひいたし、ふたうの物の心やな、あらぬかたわのつきぬるを、よにいまはしくおもひしに、とかもなきはゝ御せん、きやうたいを、のろう事こそふしきなれ。かたはものをうちにをきては、なにかせん。いつかたへもおひいたしたまへとのたまへは、まゝ母これをきゝて、そはヘうちむきて、さもうれしけなるふせいしてわらひける。さていたはしや、はちかつきをひきよせて。めしたるものをはきとりて、あさましけなるかたひら一つきせまいらせ、あるのゝ中の四つちへ、すてけるこそあはれなれ。扨、こはいかなるうき世そと、やみにまよふこゝちして、いつくへゆくへきやうもなし。なくより [page 11] ほかの事はなし。やゝしはしありてかくなん。 野のすゑのみちふみわけていつくとも さしてゆきなん身とはおもはす とうちなかめ、あしにまかせてまよひあるき給ひけるに、おほきなる川のはたへ、うちつき給ふ。こゝにたちとまりていつくをさしてゆくともなくまよひありかんより、此川のみくすとなり、はゝうへのおはしますところへ参りなんとおほしめして、川のはたへのそき給へは、さすかおさなきこゝろのはかなさは、きしうつなみもおそろしや。瀬々のしらなみはけしくて、そこはかとなきみつのおもすさましけれは、いかゝあらんとおもへとも、これを心のたねとして、すてにおもひきり、かはヘ身をこそなけんとし給ふとき、かくこそ一しゆつらねけり。 河きしのやなきのいとのひとすぢに おもひきる身をかみもたすけよ かやうにうちなかめ、御身をなけ、しつみけれ [page 12] とも、はちにひかれて御かほはかりさし出て、なかれけるほとに、りやうする舟のとをりけるかこゝにはちのなかれける、なに物そといひてあけみれは、かしらははちにて、したは人なり。舟人これをみて、あらおそろしや、いかなるものやらんとて、川のきしへなけあくる。やゝしはらくありて、をきなをる。つく〳〵とあんし、かくはかり。 川なみのそこにこのみのとまれかし なとニたひはうきあかりけん なとゝうちなかめ、あるにあられぬふせいして、たとりかねてそたち給ふ。 [page 13] さてあるヘきにあらされは、あしにまかせてゆくほとに、有人さとに出給ふ。里人これを見て、これはいかなるものやらん。かしらははち、下は人なり。いかなる山のおくよりか、ひさしきはちかへんけして、はちかつきてはけゝるそ。いかさま人けんにてはなしとて、ゆひをさして、おそろしかりてわらひける。ある人申けるやうは、たとへはけものにてもあれ。手あしのはつれのうつくしさよと、とり〳〵にこそ申ける。さ [page 14] るほとに、そのところのこくしにてまします人、御名をは山かけのさんみ中将とこそ申ける、折ふし、えんきやうたうして、よものこすゑをなかめつゝ、かすみに、とをさとのしつかかやり火、さしもくさ。そこいにくゆるうすけふり、うはのそらにてたちなひき、おもしろかりけるゆふくれは、こひする人にみせはやと、なかめいたしてたち給ふところに、かのはちかつきあゆみよる。ちうしやうとのは御覧して、あれよひよせよとのたまへは、わかさふらひともニ三人はしり出かのはちかつきをつれてまいる。いつくの浦いかなるものそとのたまへは、はちかつき申やう、われはかたのゝへんのものにて候。はゝにほとなくをくれ、おもひあまりに、かゝるかたはさえつきて候へは、あはれむものもなきまゝに、なにはのうらによしなしと、あしにまかせてまよひありき候と申けれは、さて〳〵ふひんとおほしめし、いたゝきたるはちをとりのけてとら [page 15] せよとて、みな〳〵よりてとりけれとも。しかとすいつきて、中〳〵とるへきやうもなし。 [page 16] 是を人々御覧して、いかなるくせものそやとて、わらひける。中将殿は御らんして、はちかつきはいつくへそとのたまへは、いつくとも、さして行へきかたもなし。はゝにはなれ候て、けつく、かゝるかたはさへつき候へは、見る人ことにをちおそれ、にくかる人は候へとも、あはれむ人はなしと申けれは、ちうしやうとの聞しめして、人のもとには、ふしきなるものゝあるも、よき物にて候とのたまへは、おほせにしたかひて、おかれける。扨、身ののふは何そとの給ひけれは、なにと申へきやうもなし。母にかしつかれし時は、こと、ひは、わこん、せうひちりき、こきん、まんよう、伊勢物語、ほけきやう八くはん、かすの御きやう、よみしより外ののふもなし。扨は、のふもなくは、ゆとのにをけとありけれは、いまたならはぬ事なれと、時にしたかふ世の中なれは、ゆとのゝ火をこそたかれける。 [page 17] あけぬれは、見る人わらひなふり、にくかる人おほけれとも、なさけをかくる人はなし。明くれ、御きやうすいよ、はちかつきとて、三かう四かうもすきさるに、五かうの天もあけさるに、せめをこされていたはしや。ふしなれぬしのたけの、おのれと雪にうつもれて、ふしたをれたるふせひして、ものはかなけにをきなをり、おもひをしはのゆふけふり、たつ名をもくるしとうちなかめ、御きやうすいはわきまいらせ候、はや取給へと [page 18] さいそくする。くるれは、御あしのゆわかせや、はちかつきと、けちをする。うき身なからもをきあかり、みたれしばをひきよせなから、かくこそつらね給ひける。 くるしきはおりたくしはの夕けふり うき身とともにたちやきえまし と、かやうにうちなかめ、いかなるゐんくわのむくひにや、かゝるうき世にすみそめて、いつまて命なからへ、かほとに物を思ひねの、むかしをおもひでの里。むねはするかのふしのたけ。そではきよみかせきなれや。いつまていのちなからへて、うきにはたえぬ涙川。あかれてすへもたのまれす、菊のうらはにおく露の、なにとなりゆく此身そと、ひとりくときて、かくはかり。 まつかせのそらふきはらふよに出て さやけき月をいつかなかめん かやうにゑいし、あしのゆをそわかしける。さるほとに、此中将とのは御子四人もち給ふ。人はみな〳〵ありつき給ふ。四はんめの御子、 [page 19] さいしやうとの、御さうしと申は、見めかたちよにすくれ、ゆうにやさしき御すかたむかしを申はけんしの大将、在原のなりひらかとそ申はかりなり。春は花のもとに日をくらし、ちりなん事をかなしみ、夏はすゝしきいつみのそこ、たまもに心にいれ、秋はこうえう、おちはのちりしく庭のもみちをなかめ、月のまへにて夜をあかし、冬はあしまのうすこほり、池のはたに羽をとちて、おしのうきねも物さひし。かさぬるつまもあらはこそひとりすさみてたち給ふ。御あにたちも、とのうへも、御ゆとのへいらせたまへとも、かの御さうしはかり残らせたまひ、さよふけてはるかになりて、ひとりゆとのへいらせ給ふ。かのはちかつき、御ゆうつしさふらふと申こへ、やさしく聞えける。 [page 20] 御きやうすいとてさしいたす手あしのうつくしさ、ちんじやうけに見えけれは、よにふしきに思召、やあ、はちかつき、人もなきに、なにかはくるしかるヘき。御ゆとのして参らせよとのたまへは、いまさらむかしをおもひいたして、人にこそゆとのさせつれ、人のゆとのをはいかゞするやらんとおもへとも、しうめいなれはちからなし。御ゆとのへこそ参りける。御さうしは御らんして、河内の国はせはしといへとも、いか [page 21] ほとの人をもみてあれとも、かほとに物よわく、あひきやうよにすくれ、うつくしき人はいまた見す。一とせ、花のみやこへのほりし時、御むろのゐんの花見のありし時、きせんくんしゆして、もんせんいちをなしつれとも、其時にも、このはちかつきほとの人はなし。いかにおもふとも、此人を見すてかたくやおもはれける。 |
| Number | [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2204/[登録番号2]文理7802 |

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