ふんせう

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License URI https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1
Holder 広島大学
Title ふんせう
Title pron. フンセウ
Vol./Num.
Physical size 1冊(全3冊)
Binding 和装
Printing 写本
Location 広島大学図書館
Collection 奈良絵本 室町時代物語
Description1 [あらすじ] 塩屋で成功した正直者の文太は鹿島大明神に参詣して子宝を授かる。成長した姉妹は才色兼備の美女と評判になり、関白の御子二位中将に求婚されて一家は末永く繁栄した。
Description2 [解題]「庶民の立身出世を描いた到富(ちふ)譚として、最も代表的な室町物語」(『中世王朝物語・ 御伽草子事典』)。庶民物、祝儀物、立身出世譚に分類される。物語末尾に「まつくめてたき事のはしめには、此さうしを御覽しあるへく候。」とあるように、正月など、めでたい席で読まれる本であった。立身出世した文正、玉の輿に乗った姉妹にあやかろうとしたものと思われる。伝本は非常に多く、十余系統に分かれる。その伝本の多さは、いかにこの物語が広く読まれていたかを物語る。広大本は奈良絵本3冊で、丹緑本(近世初頭、墨刷りの絵入り版本の挿絵に、出版時に丹緑黄の筆彩色を施したもの)の本文を写し、奈良絵本として仕立てたものと見られる。同じく丹緑本系統の奈良絵本としては天理図書館蔵本(題簽「弾上物語」)などがある。
参考文献
【テキスト】1『室町時代物語大成』11/2『室町時代物語集』5/3『京都大学蔵むろまちものがたり』3、7、12/4日本古典文学大系『御伽草子』 /5日本古典文学全集『御伽草子集』 ほか。
【研究文献】1三谷栄一「文正草子と春のことぶれ」(三谷栄一『日本文学の民族学的研究』昭和35年、有精堂)/2岡田啓助『文正草子の研究』 桜楓社 1983./3安達敬子「『文正草子』試論―御伽草子にみる『源氏物語』受容の一例―」(『国語国文』第65巻第4号)
Reprinting [page 2]ふんせう 中
日ひかすかさなりて、みやこへつかせ給ふ。まつてんかの御所へまいりける。おりふし國々の物かたりともはんへりしに、えふのくらんと、わか心にかゝえるまゝに申けるは、いつれの國と申とも、ひたちの国ほと、ふしきなるものゝあるくには候ましと申けれは、てんかの御子に、三ゐの中しやう殿此よしきこしめし、なにことやらんと御尋ねありけれは、かしまの大くうしと申もの

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かさうしきに、ふんせうと申もの、いかなるせんせのいはれにや、しちんまんほうたからにあきみち、たのしみさかふるのみならす、かの大明神より御りしやうにたまはりたるひめをニ人もちて候か、ゆふにやさしく、ひかるほとの見めかたち、心さま、けいのふにいたるまて、人げんのわさともおほえす候ときゝ、みちしげもとかく申て候ひしかとも、さらになひくけしきもなく候。しうの大ぐうじをはしめて、國〳〵の大みやうとも、我も〳〵と申けれともきゝいれす、ふたりのおやか申事もきかす候と、かたり申けれは、中しやう殿はつく〳〵ときこしめし、やかて見ぬこいとならせたまひて、いつとなくなやみ給ふ。その心しかるヘきくきやうてんしやう人の、ひめきみたちを、われも〳〵と申されけれとも、さらにきゝいれたまはす、うちふし給ひける。てんかもきたのまんところ、御い

[page 4]
のりさま〳〵なり。やう〳〵月日もたちけれは、あきのなかばなれは、くまなき月にあこかれ、中しやう殿たちいて給ひけれは、なくさめ申さんとて、くわんげんをぞはしめ給ひ、さま〳〵の御あそひともあり。中しやう殿かくなん、
 月見れはやらんかたなくかなしきを
 こととふ人のなとなかるらん
かやうによませ給ひて、御そてをかほにあて、なみたくませ給ひて、又うちふし給ふを、ひやうゑのすけ見とゝめ申て、

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此ほときみのれいならぬ御うち、いかなる御事にやとおもひ候へは、人しれす物おもはせ給ひけるを、いまゝてさとり申さぬ事よとて、ひやうゑのすけ、しきふの大夫、とうまのすけ、三人御まへにまいりて申けるは、これほとにおほしめし候御事を、おほせもいたさせ給はす、いかなるもろこしまてもたつね申へし、何かくるしく候へきなとゝ申けれは、つゝめといろに出けることの、

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はつかしさよとおほしめし、われなからうはのそらなるやうに、はゝかりおほくはんへれとも、いまは何をかつゝむへき。すきにしはるの比、ゑふのくらんとか物語候ひし、大くうしかうちのさうしきに、んせうむすめに、かたちすくれたるをもちたるよしをきゝしより、一すちにおもひはんへるなり。人をくたしてめしたけれとも、よのそしりもはゝかりあれは、たゝおもひに身をくたき候とて、御なみたにむせひ給ひけれは、

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人々申されけるは、むかしよりこひのみち、かくこそ候へ。たゝひたちの国へ御とも申てくたり候はんと申けれは、中じやうとの御よろこひかきりなし。かくは申なから、いかゝして下り申へき、みやこにてたにもまきれなく、いつくしくましますに、あつまのおくにては、いよ〳〵まかふかたもあるヘからすと、あんしめくらすに、たゝあき人のまねをして、いろ〳〵のうりものを

[page 8]
もちたらはしかるヘしとて、さま〳〵のものをもちて、をの〳〵せんたんびつをせほひ、すてにくたらんとそしたまひける。ちうしやう殿、さすかはる〳〵のみちにおもむき給はんに、いまいちとちゝはゝたちにも見えたてまつらんとおほしめし、御まへにまいり給へは、此ほとはなにとやらん、なやみかちにておはしませしか、たちいて給ふうれしさよと、よろこひあいたまへは、ちうしやうとのは、をんこくへくたらんこともしろしめさす、あとにてなけき給はんことよと、なけき御なみたくみ給へは、御ふたところなから、そてをかほにあて給ふ。ちうしやうとのおもひきつて出給ひける。御こゝろのうちかきくれて、御しやうそくをぬきおかせて、御なをしのそてにかくなん、
 あつまちのかたみとてこそぬきおくに
 かはるまてとはおもふ

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 なよめき
かやうにあそはして、いつめしなれたる事もなき、わらくつひたゝれをめして、御身をやつし給ふ。御ともの人々、おなしくやつれくたり給ふ。ちうしやう殿は十八、しきふの太夫廿五、いつれもわか天じやうにて、いつくしかりける御すかたにて、御身をやつしくたり給へとも、まかふへきかたもなし。十月十日あまりの比、みやこをたち出させ給ひて、ひたちのくにへそくたり給ふ。みちすから哥をよみ、こゝろをすまし、物あはれにおほしめし、よろつ草木まても御めをとゝめて人々とともなひくたり給ふほとに、あるやまを御覽して。
 身をしれはこひはくるしきものそとて
 さこそはしかのひとりなくらん
ありあけのくまなきそらを御覽して、うらやましと

[page 10]
おほしめし、
 うらやましかけもかはらすすむ月の
 われにはくもる秋のそらかな
しきふの太夫、
 めくりあはんほとこそくもらん月かけは
 つゐに雲井にひかりましなん
かくて物ことにいはひ申ゆく程に、三かわの国八はしをすき給ふに、からころもきつゝなれにしいにしへもいまのやうにおほしめしつゝけて、くもてにものをこそおもひ給ひける。ある山なかにて、としのよはひ七八十はかりなるおきなの、見奉りて、をの〳〵いかなる人にてましますそと申けれは、これはみやこより物うりにくたるあき人にて候が、ひたちの国へくたり候とのたまへは、いや〳〵あき人らとは見申さす候。このころてんかの御子に、ニゐのちうしやう殿

[page 11]
と見申て候。こひちにまよひ出させ給ひて候が、このくれにおほしめす人にかならすあわせ給ふへし。このおきな、よく見申て候そと申けるに、そらおそろしくおほしめしなから、おもふ人にひきあわせへきといふがうれしきにとて、御小袖一かさねとりいたして、かのおきなにたひにける。これはきこゆる見とをしのせうにて候とて、かきけすやうにうせぬ

[page 12]
扨そのゝちは、たのもしくおほしめして、御あしのいたさもおほえすいそきてくたり給ふ。みやこには、ニゐのちうしやうとのうせ給へるとて、ゐんちうのさはぎ、中〳〵申もおろかなり。きたのまん所の御事は申におよはす、きやうちうのさわぎかきりなし。いつとなくむすほうれておはしませは、いかなる御うらみもやとて、すみ給ひしかたを御覽し給へは、ぬきおき給ひしひたゝれのそてに、あそはしたるを御らんして、すこしたのもしくおほしめしける。さるほとにひたちの國へつき給ふ。まつかしまの大明神へまいり給ひて、御つや申させ給ひ、ねかはくは、ふんせうがむすめにひきあはせ給へと、夜もすからきねん申させ給ひて、あけれはげかうし給ひける。ある小家にたちよりてたつね給へば、あるしみちしるヘして

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をしへ申けるに、ふんせうかたち七十ちやうのつゐちをつき、かゝるいなかにも、めてたきところありけりとおほしめし、たちやすらひておはしけるに、下女のいで申けるは、いかなる人そとといけれは、みやこのかたより、物うりにくたりて候なりとの給へは、さやうの事をこそこれにあいさせ給ひ候へ、申いれ候はんといひけれは、うれしくてやかてつゝきていり給ふか、うりものにとりては、かふり、しやうそく、むらさきのさしぬき、しやく、あふき、女はうのしやうそく、はるあきのよしのはつせのはな色々をつくしおりたる、こうはい、むめ、さくら、やなきのいとの、春風にみたれて、ものぞおもひける、ちきりのほとはしらねとも、をとにのみきくのみつ、こゝろつくしふねこかれていてにしやまふきのいろをしるヘにあこかれて、あふにいのちもなからへて、むすひかけたる

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ちきりをも、めしたくや候。夏はすゝしきいつみとの、かもやおし鳥おりかけて、しやうふかさねのからころもに、こひの百首をぬいつくし、そのはなかさねの、十五やのこひしき人をみちのくの、しのふのさとはたつぬれと、あはれをたれかさゝかにの、くもてにものやおもふらんをも、めしたくや。あきはもみちのいろふかき、おもふこゝろのあいそめかはなのみして、そてはくちはにあこかれて、こひちにまよふみちしはの、つゆうちはらふしらきくの、うつろふいろもめしたくや候。ふゆは雪まにねをませは、やかてか人を見るヘき、ふしのけふりのそらにきゆるみのゆくゑこそあはれなれ、かせのたよりのことつてもかな、こゝろのうちのくるしさも、せめてはかくとしらせはやと、いろおりたるもめしたくや候。春にとりては、しろきあかきかけおひ、きちやう、ひきものなとも

[page 15]
めしたくや候。さてくそくのいろ〳〵は、てはこすゝりにかけこなり、又みのつほにあいそへて、とよのあかりのせちゑには、くし、たたうかみ、くれなゐむらさきいろふかき、うすやう、すみ、ふて、ぢん、じやかう、たき物なとも候なり。まくらのすくれておほゆるは、ことにやさしきはなまくら、こすけのまくら、からまくら、こひちにまよふよきまくら、ちんのまくらをならへつゝ、人にはしめてにいまくら、かゝみにとりては、しろかねのうらなる、とりのむかひたるからのかゝみやひわ、ことり、うくひす、ひよとりなとまてもかすをつくして、いつけたるかゝみやめされ候と、ことはに花をさかせつゝ、かやうにやさしきうり物とも、こひのこゝろをたよりとや、きゝしる人もあるやとてうり給ふ。ふんせうかうちのものともおほけれとも、やましろなれはきゝしらす。女はうたちのそのなかに、みやこ人にてありけるか、

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なさけもふかく、よみかきわかのみちにくらからす、みめかたちいつくしき人とて、ひめきみのかいしやくにつけたりしか、此あき人をうちみつゝ、すかたありさまにいたるまて、たゝ人ならぬふせひなり、うり物のことはつゝき、いとやさしき人なり、ふしきなり、もしわかてんしやう人たち、きゝおよひあこかれて、是まてくたり給ふかと、あやしけにこそおもひけれ。いまたかやうのおもしろきうり物こそ候はね。きかせ給へといひけれは、ふんせうもていのつまとあけてきゝつれは、さもおもしろくそおほえける。あのとのはらはいつくの人にてましませは、かくおもしろくはうり給ふそ。いま一どうり給へと申せは人々めを見あわせて、これこそきこゆるふんせうよとて、又さきのことくうり給ふ。

[page 17]
あまりおもしろきに、二三どまてそうらせける。いかにしてか、この人々を、これにとゝめんとおもひ、あのとのはらたち、やどはいつくにて候ととひけれは。やとも候はす。これへすくにまいりて候と申給へは、うれしとおもひ、やかてなかのていに入たてまつり、御あしのゆなといたしけれは、とうまのすけ御あしをすましけれは、ひやうゑのすけ、ねりぬきの御てぬこひにてのごひ

[page 18]
申けり。中しやう殿は、御身もおとろへやせ給へとも、なを人にはすくれ見え給ひける。ふんせうかうちのものとも申けるは、せんだんひつもちたるおとこ、大事のはんざうたらいにあしを入て、一人はあらい、いま一人はいつくしききぬにて、のごうおかしさよとてわらひける。ふんせう、京あき人ははつかしきそ。はんなどしんじやうにして、まいらせよといひけれは、たかつきに八しゆのぐそくし、みな〳〵おなしやうにしてすゑけるをおの〳〵はとりおろしけれは、みやこ人はおかしきものや、あのやせおとこにものをくはせて、ひれふすやうにして、くいもならはぬやらん、そなへをみなとりおろして、くいけるおかしさよとわらいける。ふんせうていに出て、この人〳〵に、さけをすゝめんとて、色々のさかなをこしらへいたし、よこざになをり、さかつき

[page 19]
をとりて申やう、あるしくはんばくと申事ことの候へは、まつのみ候べしとて、三どのみてのちに、ちうしやうとのにまいらせけれは、ちからなくてまいりけり。御ともの人々、めもくるゝこゝちして、こひほとかなしきものはなし、ゐんよりほかは、たれか君よりさきにさかつきをとらせ給ふへきとて、をのをのなみたをながす。中しやうとのもあさましくおほしめしけれとも、ちからなくまいりける。さてふんせう、さけのゑいのまゝ申けるは、つねおかいやしきものにて候へ共、かしまの大明神より給はりて、見めよきひめをニ人もちて候が、しうなどのやうにもてなし候。八かこくの大みやうたちわれも〳〵と申され候へ共、さらになひかす、つねをかしうの大くうしどの、よめにとおほせられ候へとも、したかひ申さす候。又こくしにくたり給ひし、京上らうも、とかくおほせ候へとも、たゝ一すぢ

[page 20]
に、ふつたうをねかい申なり。その女はうたちに、みめよきかあたま候。けいせいほしくは十人も廿人もまいらせ申へし。しはらく是に御とうりう候て、御あそひ候へと申けり。

[page 21]
中ちうしやうとのをはしめて、おかしくそきゝ給ふ。そのゝちいつくしきものとも、はこのなかにいれて、ひめ君のかたへとてつかはされける。ひめたち御覽して、おほくのものを見つれとも、これほとめつらしきものをいまた見すとて見給へは、すゝりの下に、もみちかさねのうすやうに、
 君ゆへにこひちにまよふみちしはの
 いろのふかさをいかてしらせん
ひめきみこれを見給ひて、かほうちあかめて、つゝましなから見給へは、筆のながれ、すみつきいまた見なれぬなり。このとし月、おほくのふみを見つれとも、これほといつくしきを見さりける。ものをうりつることばつき、されはこそとおもひて、あねひめはかへし給ふを、かいしやくの女ばうたち、是ほとやさしき物を、御かへし候へは、いろをもしらぬやうにおほ

[page 22]
え候。たゝ御とめ候へと申けれは、けにもとおほしけん、とゝめ給ふ也。又いもうと、このいろ〳〵を御覽して、うらやみければ、ふんせう申けるは、つねをかむすめをニ人もちて候。さきにたまはり候ものを、いもうとうらやみ申候。これにも給はり候へと申けれは、かねてよりよういしてをき給へは、おとらぬいつくしきもの共を、おくり給ひける。
Number [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2205/[登録番号2]文理7796