doi : 10.15027/da55
花世姫
| License |
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|---|---|
| License URI | https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1 |
| Holder | 広島大学 |
| Title | 花世姫 |
| Title pron. | ハナヨノヒメ |
| Author | [作者未詳] |
| Vol./Num. | 下 |
| Physical size | 1冊(全2冊); 縦23cm× 横17cm; 挿絵: 下冊九丁分 |
| Binding | 和装 |
| Printing | 写本 |
| Location | 広島大学図書館 |
| Collection | 奈良絵本 室町時代物語 |
| Description1 | 半紙本。料紙は鳥の子紙で、金泥で草花模様が描かれている。表紙は、鶯色の布地に水色と金色で、花と唐草の模様を織り出している。外題題簽は「花世姫上」「花世姫下」と墨書。内題は「はな世の姫上」「はな世の姫中」「花よの姫下」。内題と装丁から、元は上中下三巻であったものを二冊に改装したものと指摘される。 [あらすじ] 継母に疎まれて山に捨てられた花世姫が、山姥の助けを得て中納言の三男宰相と結ばれ、一族が繁栄する物語。 |
| Description2 | [解説]本書は継子物の代表作で、同趣向の作品に『鉢かづき』『うばかは』がある。いずれも観音の霊験を説くものである。全国的に分布する昔話の姥皮型と呼ばれる継子譚を素材にしてなったものである。『鉢かづき』『うばかは』に較べて全体に詞章の潤色が多く、分量が増えている。申し子、山姥の様相、鬼がなま臭いということ、父との再会などの場面等は、新たな趣向であり、増幅した記事である。山姥の描写は昔話のものとよく似る。姫君が身をやつして火焚きになる趣向も継子譚の定型であり、女性と竈神信仰の関わりや、欧米のシンデレラ物語が想起されることも既に指摘されている。主な伝本は無刊記絵入版本三冊(赤木文庫旧蔵)と奈良絵本二冊(広島大学蔵本・写本)がある。赤木文庫蔵本と同版の本は天理図書館、東洋文庫、東北大学付属図書館にある。広島大学蔵本は現存する唯一の写本である。 参考文献 【テキスト】1、『室町時代物語集』第三(果園文庫蔵刊本)/2、岩波文庫『お伽草子』(東北大学蔵刊本)/3、『室町時代物語大成』第十(赤木文庫蔵刊本) 【研究文献】1、徳田和夫 『お伽草子事典』(東京堂出版 平成14年)/2、『日本古典文学大辞典』 岩波書店/3、松本隆信「民間説話系の室町時代物語―「鉢かづき」「伊豆箱根の本地」他―」 (『斯道文庫論集』7 昭和44年10月)/4、岡田啓助 「『花世の姫』と民間伝承」(『日本文学』26巻2号 昭和52年2月)/5、稲井ひとみ 「『花世の姫』についての一考察」(『愛文』22号 昭和61年9月) |
| Reprinting | [page 2] またくれぬれは、いらせ給ひて、けふの梅の花の御返哥、御心のほとかんしまいらせ候なとゝて、たはふれさせ御座し、めのとにかくとおほせけれは、あらめてたや、我等もつけ申へしとて、かやうに申されける。 梅の花ハ重紅梅のいろそへて かはらぬはるそちよをへぬへし かやうによみ申てあそひたまひ、其後に御心うちとけて、御さかつきまいらせて、ちよい御しやく申て、さらは一しゆつけ給へとて、それ〳〵とおほせ [page 3] けれは、何とか申へしとて、かをうちあかめ給へは、せめ給ふほとにかやう詠申けり。 梅の花いろそふはるのけふことに ちよよろつ世のかけそ久しき とよみ給て、いよ〳〵あさからすして、ちきりの程もめてたふは候へ共、おやのしらせたまはねは、のちいかゝあらんやと、これそ心のせきとなれとも、めのと、ちよい、まつわかも、おなし心にてもらしたる事あらされは、人はしらさりけり。かくて人しれす、よな〳〵かよひ給ひて、心やすくおほしめしけるほとに、いかなる人のさまたけあるとても、かはりたまふへき御中とは見えたまはす。これをはゝうへは、ゆめにもしらせたまはねは、朝夕御心にかゝりておほしめしける程に、ある時御すかたを見をくり給ひておほせけるは、いかにめのときゝ給へ、あのさいしやうの君は、せい人して候物かな、此程はなをおとなしやかに見え候そや、ためらひ候へとも、あまりおそく候、此なかは成ひめ君を申なつけ候はんとおもふなりとおほせけれは、うけ給候、されは、わか君わりなく思ひ給ふ人は、何とあるヘきやと思へは、 [page 4] かほにもみちをちらしける。其後にわか君へ参りて此よしを申あくれは、おやのおほせをうけたまはるも、ことによるそ。思ふ人にわかれ、みたからぬ人を見る事は、いきたるかひはあらし。物をなをも見よとおほせならは、あしにまかせていつくへもゆくへし。思ふ人をはすてましき、そのよし申給ふへしとつれなけに仰けり。これをうけたまはり、此君は何と申ても、此ひめ君をはすて給ふへきやうもなし、わりなくおほしめし候御中をは、いかてか引さけ申へしと、いたはしく思ひて、其後についてなから申けるは、此程ほのかにうけたまはり候へは、よそへかよひ給ふかた、御入候由あやしくこそと、申けれは、母上きゝ給ひて、あさましや、それはいかなる物やらん、さりとも、無道にして、おやのはからはぬ事あるましきとはおもへとも、たれかはすゝめけん。まつわか、しらてあるヘきかなとやといたまはぬと仰けれは、めのと申けるは、いやとよ、それもしらぬよし申候也。ふかくかくれ候なれは、たれかはしりまいらせ候へしと申されけれは、あまりによきかたをとためらひたりしかひもなく、いかなる物にてや [page 5] あるヘしと後悔し給ふは、ことはりなりとそ申ける。其中にきたの御かたの御つほね、とし六十計の人なるか、すゝみいてゝ申されけるは、むかしもいまもためしあり。御よめくらへと仰候はゝ、其時こそかすならぬ物にて候はゝ、はちかましくおほしめして、御すて候はんと申されけれは、けにもとて、御まへのねうはうたちを御つかひにて、母上よりの仰には、御にはの梅、さかりすき候ほとに、明日は御覧し候ほとに、いつれも〳〵、御よめこたちの御出にて候程に、さいしやう殿の御かたをも、御出しまいらせたまへ、くらへ申へしとの仰にて候と申けれは、わか君の御返事には、いやしきしつのめにて候へとも、仰かおもく候程に出し申へしと、はゝかる所なくこそのたまひけれ。御つかひのねうはうたち此よし申て、御まへをたちていひけるは、此君はたゝ事にあらす、はちをもしらせたまはすや、かやうにおもてつれなき御人とは、おもはさりつるなとゝて、さゝやきあへり。御母上もいかゝあらんとおほつかなくそおほしめしける。さて、日もくれけれは、めのとのやとへ入せ給ひて、此よしを御物語ありけれは、ひめ君きゝ給ひて、うらめしの仰や、我身は本よりも [page 6] 思ひまうけたる事なれは、いつくへもまよひゆき候へし、たゝおやの仰につき給へとそ仰ける。わか君はきゝ給ひ、御身出たまはゝ、いつくのうら、ふちせのそこまてもつれまいらせ候へしとよ、いつまてかくてはしのふへし、たゝ此のちは世中ひろくしてそひ申へし、御装束は妹のひめきみへ申候へと、めのとをたのむとのたまへは、めのとうけたまはりて、それまてもさふらはす、ちよいを人に見せ候はんために、装束は拵て持て候程に、此度の御ようには、たて申へし、御心やすくおほしめし候へと申けれは、御よろこひはかきりなし。御かたちもたれにかはおとり給ふへきかと、めのともうれしく思ひて、あくれは御きやうすいなとめさせ、まゆ、ほけ〳〵とつくりたまひ、うつくしくおはしけり。さてもひめ君、おほしめし出しけるは、けに山うはかをしへしは、ふさいの縁かさたまりたらん時、此こふくろをあけて見よといひつる事あり。あけて見はやと思ひて、ひやうふのかけにたちかくれ、かのこふくろをあけ給へは、五しきのたま出けれは、此たまめのまへにてふんしけり。 [page 8] きんきん、あや、きんしうのたくひ、からおり物、ねうはうのしやうそく、かもし、かけおひ、おとこの道具、たちかたなまて、いろ〳〵、さま〳〵、かすをつくして、山のことくに出てあり。ふしきに思ひて、めのとをめして、これみたまへとおほせけれは、まことにめをおとろかすはかりなり。めのと申けるは、是はいかなる御事そやと申せは、くはんおんの御ちかひにて候と仰けれは、さては目出たき、御ちかひかな、くはんせおんの申子にておはし候や、けふの御出、いよ〳〵めてたくこそ候へとて、出たゝせまいらせ給ふからあや、からおり [page 9] 物、くれないのはかままて、たらはぬ事なけれは、たけなるかもし、ゆら〳〵とかけ給ひて、花のことくに、出たちたまへは、うつくしの御すかたやな、たれにかおとりたまはんとうれしさかきりなし。かゝる所に又御使あり、何とておそく御出候や、はや〳〵出しまいらせたまへ、いつくにおはし候やらんとそ申ける。さらは御むかひのこしを給候へと申けれは、人々さゝやき申けるは、何ものをのせんとて、かやうにめのとの申事やらん、おかしやなとゝ申ける。されとも、わか君の御ためなれは、こしをまいらせよとて、めのとのやとへ御こしをかきよせけり。なにとなくこしにめされて、大とのへそかきいれける。めのともちよいも御とも申けり、御あにこたちしのひ、こしより出るところをみて、わらはんとたくみ給ひて御覧しけり。御めのと、ちよい、御かいしやくにておろしまいらせ、たち出させたまふ御すかた、まことにかくとも筆にもおよひかたし。ニ人の御あにこたち、わらはんことはうちわすれ、めとめを見合て、かやうの人はいつくより出つらむとさゝやき給ひて、たちかへりたまひけり。さても、御さしきにはおもひ〳〵に出たちて、ニ人のよめ [page 10] こ、御いもうとのひめもわれをとらしと、いならひたまふところへ、ひき物うちあけて、入まいらせけれは、心もことはもおよはれす、ひとへに天人のやうかうなるかとおもふはかりにて、ことのはもなかりけり。中納言殿も北の御方も思ひの外にそおほしける。あまりの事のうれしさに、母上さしきをたちたまひ、御てを引、右の座敷になをしまいらせて、つく〳〵とまもり給ひける。御年の程は十四五計にて、たまをみかける御かほはせ、ほけやかにして、御めもとけたかく、あいきやうこまやかにて、ひんのかゝりたをやかにして、やなきのいとをはるかせの、けつるににて、いつくになんをかくへきやうもなし。かやうの人とは、たれかはしるヘき。あまりのふしきさに、めのとをちかくめしてとひ給へとも、ゆめ〳〵われらは、しりまいらせす候、とひまいらせ候へは、たゝひろひたるとはかりおほせ候と申けれは、さてはまことにふり人にてもあるやらん。此世の人とは見えたまはすとて、御よろこひはかきりなし。 [page 12] さて、御さかつき参、御しゆ三こんすきて後、御もてなしもさま〳〵にて、めつらしきたき物をとり出し、御かうろまはりけれは、けふの御きやく人とて、ひめ君の御まへにそまいらせける。さて、しつ〳〵と御てをかけさせたまひてのち、御たもとよりきん〳〵にたみ、めいの心をゑにかきたる、かうはこにめいかうをたふ〳〵と入て、かうほんに何となくうちをきたまへは、中納言殿御らんして、それこなたへと仰けり、御まへにもちてまいりけり。とりて御らんすれは、あまのはころもといふめいかうなり。此心は天人のすき [page 13] 給ふ物なれは、くものうへまてもにほひのほるといふめいかうなり。あらめつらしやとて、ひしきて一たきかうろにをき給へは、まことにおもしろくいきやうくんして、人々の迷ひのつみもきゆるはかりにて、天人もなとかはえうかうならさるヘきと、かんせぬ人こそなかりけれ。人々けふをもよほして、さいしやうの君はいかなるくわほう、きとく人にておはし候やらん。かやうのふり人をいつくにてかは、ひろひ給ふやらんとふしきの思ひをそなし給ひける。その日もくれて、御さかつきもおさまりて、みな〳〵かへり給ひけり。そさうなる所には、いかてかはすませ申へきとて、中納言殿のつねは御なくさみの御さしきとて、てんしやうにこしらへ給ふところ有、これへ入申とて御かいしやくのねうはうたちあまたなかい、はしたにいたるまて、かす〳〵そへたてまつり、いつきかしつき給ふ事かきりなし。さてこそ、御心のまゝにそいまいらせ給ひけれ、北の御かたもけんさんなくはゆかしく思ふへし、いとをしくおほしめし、つねはたち入給ひけり。又、ひめ君を [page 14] はしめとして、よめこたちうちつれ、まいらせたまひ、御なくさみのためにとていらせおはします。いろ〳〵の御あそひともありけれとも、よみかき給ふことにも、ひわことのひきよくまてまさりはすれとも、おとり給ふ事なし。又吉日をゑらみて、おかたつくりをし給ひ、あまたのはんしやう、あつめ給へは、ほとなくつくりいたしけり。御わたましとて、さま〳〵の御祝あり、中納言殿よりもくらをニつ、御いゑの悦とてまいらせけり。たからのくら、よねのくらなり。めてたかりけるためしなりとて、うらやまぬ人はなかりけり。 花よの姫下 かくて御心のまゝにうちそひまいらせ、ひよくれんりの御ちきり、のこらす何にふそくはましまさねとも、ひめ君の御心には、ちゝやめのとの恋しさと、又つかひなれたる人々をかやうにあらはやと、これのみ御心にかゝりけれは、あさタは御袖のしからみたへもなし。さるほとに、はるは花にたはふれ、あをはにましるおそさくら、なこりおしきはるの日かすもたちけれは、うの花月のなつもきたりて、あふきのかせもすゝしく、いつみをむすひてなくさむ [page 15] なつの日かすもうちすきて、はやはつ秋の比なれは、けふははや七月七日七夕のまつりとて、ほしのたむけさま〳〵なり。さいしやうの君もうたをあそはし、七タにそなへまいらせて、御筆のつゐてなれは、たはむれの哥をあそはし、これ御覧し候へとて、ひめ君の御ひさの上にをき給ふ。御らんすれは 秋まちてけふ七夕のよろこひも 我はつあきのうれしさそます かやうによみ給へは、心得給ひておかしくおほしめしける。又筆をそめて一しゆあそはし候へとてせめ給へは、いなみかたくて たなはたのあふはつ秋ときくからに いとゝ露けき我かたもとかな とかきて、袖をかほにあて給へは、さいしやうとの御覧して、扨は御身はあかぬつまをもちて、恋させ給ふかとおほせけれは、うつゝなやおやこのみちの恋しさはおとるへきかやとおほせけれは、わか君きゝ給ひ、それほとこひしきおやをもちたまはゝ、なのり給へかし、たといゑそか嶋、いかなる所成とも、なとかはたつねてまいらせさるヘき、御心ふかのありさまやとのたまへは [page 17] ひめ君もいまははやつゝみかね、さのみはかくし申へきにあらねとも、はゝかりおほく候へは申さぬなり。みつからかちゝは、ふしのすそのゝ山さとにすみ給ふ、ふんこのかみもりたかにておはします。みつから一人もち給ひて、世にもあらしとていとおしみ給ひしか。母上は身つから九さいと申はるの比、むなしく成給ふなり。ちゝはおなし道にとなけき給へとも、みつからを思ふゆへとて、なけきなから月日もたち、みとせのはるもうちすくれは、一もんの人々したしきかたのはからひにて、 [page 18] さるヘき人を申合、入まいらせ給ひけれ共、ちゝの御心には母上の御ほたいのとふらひのみ、あさゆふ御心に入給ひ、その御かたへは、さなからたちよらせたまはねは、我らかあるゆへとて、つねはにくみ給へとも、しらすかほにてうちすきぬ。ある時、ちゝの御るすに我をたはかり出して、ふしをたのみ、ゆくゑもしらぬおく山へすて給ひしなり。されとも、くはんせおんの御ちかひにや、こらうやかんのゑしきにもならすして、山うはとやらんかしひにより、その山に一夜あかし、あくれはかの山うはかなさけふかくして、人さとへをくり、みちすからはかけをそへてをくるなり。山きはヘしろき水のなかれいつるをみて、その水につきてゆけよとをしへ候へつるまゝに、まかせてたとり〳〵とあゆみ候へは、此いゑのひかしのもんにきたり、あしをやすめていたりしを、御うちのはしたものに、あきのと申ものみつけて、わかやとへつれてゆき、いたはりてねんころにし、其後、てうつかまのわきにすませ、ふゆをくらし候へつるに、いかなるきゑんのありてや御らんし出し候つらん。すかたをかへて人に見しられぬ事も、山 [page 19] うはかぬきたるきぬをかし候へつるゆへなり。こなたへめし出されし時の、たから物出たることも、其山うはか得させたるこふくろより出て候。かやうの物語、とくに申たふは候へとも、おやならぬおやのなのたつ事をかなしく思ひ、いまゝてつゝみ候そやとかたり給へは、君もともになみたをなかしたまひなとや、とくにもおほせ候はて、心つよくもいまゝてつゝみ給ふかや、さらは御文あそはし候へ、つたへ申へしとおほせけれは、それとてもひそかにとありけれは、やすき御事なり、我身にかはらぬもの候へは、つかふへし、御心やすく思ひ給へとよ、いそき候へとのたまへは、うれしく思ひたまひてあそはしける。此比は恋しさ、いやましにては候へ共、御ふきやうの身にて候へは、なけきなから月日ををくりまいらせ候、あまりに恋しく、たゝ御ゆかしく候はゝ、いそき〳〵おはしまし、かはらぬ御すかたを見ゝへさせおはしませと、こま〳〵とかきてまいらせ給へは、さいしやうとのうけとりたまひて、御もりにて候源太と申ものをちかくめして、しか〳〵のよしおほせふくめ給へは、かのおとこかしこく、あしもはやきものなれは、その日はくれて、 [page 20] あすは夜ふかきにたち出て、ひるよりまへにゆきつきて、あんないこうて申けるは、これはみやこのかたより御ことつての候へはまいり候、もりたかとのにけんさんにて申へしといひけれは、さらは、きくへしとて、出たまひけり。 [page 22] いかなるかたよりのことつてそやとおほせけれは、まつ文をあけける、とりて、上を御覧すれは、御文もりたかさまへまいる、はなよのひめとかき給ふ。これは夢かやうつゝかとあきれ給ひてひらき御覧しけれは、此程の御心つくし、恋かなしみ給ひし、ひめ君よりの御文なり。せひをもわきまへたまはすして、御かほにをしあてゝ、さめ〳〵となきて御覧しけり。こまやかにかき給ふ。うれしさかきりなく、御使をめして人をのけ、くはしくたつねてきゝ給ふ。をしへのことく語けれは、御よろこひはかきりなし。わかれし時はいのちおしからさりしかとも、これこそなからへたるしるしなれとて、御うしろみの左衛門をめして、これをんみつせよ、此つかひもてなし、はやく返し候へ、又中納言とのゝ御しゆくしよへ、あんないしりたるものやあるととひたまへは、それかしかつれたるものゝさとにて候程に、人かよひ候と申けれは、御よろこひあり、御返事あそはして御使にわたし給ふ。これは時のしうきとて、小そて一かさね出し給ふ、源太うけとり、おしいたゝき、かたにうちかけ、出にけり。又よき馬にくらをきて、あし [page 23] はやきこまなれは、めして道いそき候へとて、いたさるゝ。源太給、つれたる物にひかせつゝ、もんくわいにてうちのりて、むちをあてゝそいそきける。これやこのむかし人のくもいにかけれと、ゑいしけんことのはまても、我か身の上と思ひ出ていそく程に、其日のくれ程にかへりつゝ、御返事とてまいらせあけけるに、さいしやうとのは御覧し、はやくもまいりたりとよろこひ給ふ。さて源太、小袖、馬、御めにかけ、これにて急申なり。大かたならぬ御すまゐにて候、明日に御けんさんとおほせ候なりと申けれは、うれしくおほしめし、ひめ君に此よし申、御返事まいらせ給へは、さてはいまた何事なくておはし、たいめん申さん事のうれしさよとて、よろこひのなみたせきあへす、御文の中を御覧して、あすをまち給ふこそおそかりけり。さて又御さとにはつかひをかへしたまひて、さへもんをめしておほせけるは、あすは早朝にたつへし、そのようゐさせよ。此たひはたから物何かおしかるヘき、くら壱つあけ、なかもち、又ひきて物には、金きん、おり物には、きんらん、とんす、あやにしき、いろよきお [page 24] り物、からあや、からおり物、ぬいのしやうそく、まき絹、いたの物にいたるまて、かすのたから物を入へし。一つのなかもちには、よろひ、はらまき、たちかたな、金作をとりそへよ、一つには、りうそく、白布なとかす〳〵入へし、ひき馬十三ひき、くらにきんふくりんををくへし。ともの物は見くるしく、あるヘからす。きはは十き、そうひやうは廿人にすくへからす、わさとひそかにゆくそ、神へまふてとふれへし。きらよくしてともさせよ、いよ〳〵たからはかすをつくしてもたせよとそおほせける。さても此事をめのとにしらせはやと思へとも、女は心なくてよろこふいろを見えて、人にさとられん、くちおしくおほしめし、さらぬていにて、れんちうへたちいらせ給ひて、いつよりも御心よけにて、あかしをめして、のたまふやうみやうにちは思ひたつ、しゆくくはんの事ありて、神へまいるなり。そのあいた、よそへゆき給ふなよとて、うちわらひてたちたまひける。 [page 26] 北の御かた御覧して、いつよりも御きけんよけにおはす。うれしさよ、此しゆくくはん、はたしてかへりたまはゝ、こなたへも入せ給ふへしとて、よろこひ給ふそはかなけれ。さて、つきの日になりぬれは、夜ふかきに出給ふとは思へとも、さすか其せいはあまたにてしのふなれは、おほくむやくとおほせけれとも、道すからようしんなれはとて、てほこなきなたもつ程に人かすおほくひしめきけり。なかもち、かすおほく、かきつれ、はるかの道も、つゝきわたりて見えたりけれは、人々これ [page 27] を見て、ふしきやな、もりたか殿は、此比はうちこもりていらせ給ふか、いつくの神へ参たまふやらん、大せいひきくし、さゝめき、出たまふそと申もことはりとおほえける。こまのあしなみはやくして、いそく心のみちすから、うれしきまゝにほともなく、恋しき人のすみ給ふ所もちかく成にけり。扨あむないしやをさきにたて、こゝもとへいらせたまふといひけれは、源太心得、はしりむかひまいらせてみれは、さすかおひたゝしくつゝきけり。大せいをはもんくわいにひかへさせ、御身ちかきさふらいはかり、御ともにてすくにおはし候へとて、入まいらせたりけれは、ひめ君まちかねさせ給ふ事なれは、はしちかく出たまひ、御てをひき給ひ、こなたへ御入候へとて入たてまつり。物をものたまはす、まつ御そはにうちふしてなき給ふはかりなり。ちゝもりたかとの、これを御覧しておほせけるは、いかに花よのひめか、うれしや、御身をうしなひて後は、さらにいのちはおしからさりしに、ほとけの御つけのたのもしくて、いまゝてなからへたるしるしには、御身にあふてうれしきそとて、はら〳〵となき給へは、ひめ [page 28] 君御めをおけ、ちゝの御かほを御覧しておほせけるは、おもやせて、おはします事のいたはしさよ、我ゆへに物思ひ給ふ事、つみの程こそおそろしけれ、思ひよらさる折ふしに、御ちゝよりの御使とて、いそき出よとおい出し、あしをもためすかきおいて、ゆくゑもしらぬ山中にすてられしを、くわんおんの御たすけにや、こらうやかんのゑしきともならすして、ふしきに命なからへて、かはらぬちゝの御すかたをもおかみまいらする事のありかたさよと、かきくとき、さめ〳〵となき給ひ、めつらしけなる御ありさま、よその見るめもいたはしく、めのとをはしめ、御まへのねうはうたち、袖をぬらさぬはなかりけり。されとも、いまは御よろこひのなみたなれは、まつ〳〵御よろこひ候へとて、めのとまいりてすゝめ申けれは、まことに〳〵、よろこひはかきりなし。そののちひめ君おほせけるは、さてあかしはとのたまへは、それもこしゝうも、こてうのまへも、いつれもかはらすして、ゐんしんをまちて候也。まつ此たひはしらせ候はぬなり。あすはよひて見せ申へきとそ [page 29] おほせける。ひめ君うれしくおほしめし、あすをまち給ふこそひさしけれ。 [page 31] 又中納言とのヘ此よしきこえけれは、思ひもよらさるきやく人かな、いなから使にて申さん事もおろかなりとて、きんたちうちつれ、まいらせたまひ、此よしかくと申けれは、もりたか殿、いてあひたてまつり、御けんさんのはしめなり。まつ中納言殿おほせには、これは思ひもよらぬ御出かな、とくにも申つたへさりし事のくちおしさよとのたまへは、もりたか仰には、されはこそ、我等かふと〳〵参候事、めんほくなふは候へとも、かいなきひめを一人もちて候へは、すきにし秋の比、こくうにうしなひ候へつるをいかなるふしきにや、御内にめしをかれ候よし、つたへさせ給ふによりて、内[ママ]章て参候事、子ゆへにまよふおやのならひかや、人めもはちもかへり見す候なり。さても〳〵、御せい人なるきんたちあまたもち給ふ。御うら山しく候なりとて、御なみたせきあへす。中納言殿おほせには、あら御ことはり候や、われらはあまたの子共の中にも、何れおろかは候はす、何事も〳〵此上は、たゝ御よろこひにて候へし。かい〳〵しくは候はねとも、あれに候さいしやうをは、いまより後は御子とおほしめし候へとて、ともに御なみたそこほし給ひ [page 32] ける。そのゝち、御よろこひの御さかつきまいりて、中納言殿ニ人の御子たちうちつれ、御かへりありけれは、さいしやうとのはとゝまり給ひ、さま〳〵御もてなし、御物語したまひて、もりたかの御よろこひ、たとへんかたもなし。さて又もりたか殿、中納言殿へ御入あり、さへもんにおほせつけ給ふ事なれは、とり〳〵の御よろこひとて、中納言殿へきんらん十まき、よき馬に、きんふくりんのくら、をかせて、こかねつくりのたちそへてまいらせ給ふ。太郎殿へもよき馬にきんふくりんのくらをかせ、たちそへて、時のしうけんとてひき給ふ。北の御かたへからおり物三かさね、しやきんをつゝみそへ給ふ、いもうとのひめ君の御かたへとて、からあや一かさねに、金きんにてたちはなの三つなり、つくり物のしやう[ママ]するかゝやく程につくりたるをそまいらせける。其外、御局、御前のねうはうたち、なかいのもの、下はしたにいたるまて、いたの物、まき物まてもかすをつくして引給ふ。一もんの人々、御内のおとなさふらひ、わかたうまても、馬、くら、物のく、たち、かたなまて、のこりなくこそひき給ひけれ、あらおひたゝしのしうと入やと、よろこはぬものはなかりけり。 [page 34] これはおもて向の事、又御かたにかへり給ひて、御よろこひさま〳〵にて、めつらしきむことのゝ見参と申、ひめ君にあひ給ふ事、うとんけの花まちゑたる心ちして、もりたかとのゝ御心のうちたとへんかたなき。御よろこひなれは、さいしやうとのヘ御しうきとて、あけ六さいの白芦毛に、なしちまきゑのくらをかせ、とねり三人そへ、こかねつくりのたちをそへ給ひ、きんらん、とんす、十まきつゝ、百両つゝ入たるしやきんつゝみを三つならへ、是は時のしうけんとて、さいしやう殿 [page 35] にまいらせ給ふなり。又ひめ君へは御よろこひの出たちとて、ぬひ物にからくれなゐ、からあや、ねりぬき、おり物三かさねに、ひいろのはかまそへてまいらせ給ふ。めのと、ちよいをはしめとして、御まへのねうはうたち、とり〳〵にこそひき給ふ。めのと、ちよいの御事は[ママ]、頃の御なさけ、いつの世にかはわするヘき、これはいまのしうきなり。かさねてよろこひ申へしとて、御よろこひはかきりなし。其後、あかしのかたへ、此よしおほせこし給へは、うけたまはりて、是は夢かやと思へは、たゝうつゝなり。あまりの事のうれしさにあきれつゝ、いかに〳〵とはかりにて思ひわけたるかたもなし。御使、申けるは、いまはゝやよろこひ給ふへしとて、こま〳〵とそかたりける。其時、あかし、心をしつめて、あらありかたや、さてはまことかや、是こそいのちのあるしるしなれとて、まつよろこひのなみたせきあへす。こしゝうも、こてうのまへも、八人の女はうたち、なかいの物にいたるまてもよろこふ事はかきりなし。いまはたれをおそるヘき、いてたち給へとすゝめけれは、我も〳〵と出たちて、まゝはゝ [page 36] 君へのことはには、すきにしころうせておはしますひめ君さま、世にいてゝおはしまし候へは、それへまいり候と申けれは、ふしきにてことのはもなし、かのしかまのめのとよりあいて、それははやおほかめのくひつるときゝし物を、もし人たかへにてもあるやらんとそのたまひける。さてもあかしは人々とつれたちて、ひめ君の御かたへ参けれは、たかいの御心のうち、うれしきにもつらきにも、さきたつ物はなみたなり。過にしかたの御物語つきもせす。めのとはわかれしよりの心つくし、御むさうの事、みこのうらなひし事をたよりにて、此はつ秋をまちし事、かたりてもあまりあり。わかれしあしたのなこりおしき事、おひ出し給ひし時の物うさ、ふしかいひしことはのなさけの事、山にてのたよりなさ、山うはかいはやのおそろしかりし事、又なさけをかけてうはきぬをきせし事、人さとへをくりし事、あきのかみつけて、いたはりて、此いゑにすみて、てうつかまの火をたきし事、めのと、ちよい、心さしのせつなき事、よるひるかたりてつきもせす。かた [page 37] りてはなき、又よろこひてはなき、たかいにうれしさかきりなし。さる程に、もりたか殿はあなたこなたの御もてなしに、すてにはや、十日はかりおはします。その程に此事こくないつうけの事なれは、国のうちにかくれもなくこそふうふんすれ、まゝはゝ君のしたしき人〳〵、これをつたへきゝ給ひ、あさましや、かくはかり人てなきおやこのなかにあるゆへ、はしをかくなり。ゐんしんもむやくとて、ことさらとふ人もなし、にくまぬ人もなかりけり。かのしかまのめのと、ニ人つれ、身のをきところのなきまゝに、あしにまかせて出たまふ、心ほそさはかきりなし。そのゝちにもりたかとの中納言殿にいとま申てのち、ひめ君におほせけるは、いまははや、心やすく見をき候へは、心にかゝる事もなし。まつかへり、よろつくはんをはたして後、やかて参りて、中納言殿に申合へきむねあれは、又こそまいり候はめ、其程はまち給へとて、さいしやうとのにいとまこふて、こま〳〵とめされてかへり給ふこそめてたけれ。山さとにかへり、御らんしけれは、北の御かたうせて見えたまはす。さて [page 38] ははや身にとかあれは、うき世もせはしといふたとへあり。せひにおよひたまはすして、扨をきぬ。まつ、くはんおんに参り給ひて、ふしおかみ、ありかたき御ちかひにて花よのひめを御たすけたまふにより、かはらぬすかたをニ度見ゝえ候事、ありかたさよ、此すゑはなを〳〵まほり給へとてきせいふかくそ申給ひて、やかてたかきところにやしきを引、御たうをたて、しゆつけを廿人すへをき、朝夕のこんきやう、つとめおこたらすして。きとくふしきのしやうくはんおんこそおはしませとて、しよ人あゆみをはこひて、はやらせ給ふなり。又山うはかきせまいらせたる、うはきぬをはたつとみ、きやうようしたまひて、つかをつき、そとはをたてゝ、きしんのしやうをてんして、しやうふつ、とくたつ、なるヘしとて、くはんおんほさつのあたりちかきところにて、とふらひ給ふそありかたき。 [page 40] 其後、かのみこのかたへは百石百貫つゝ給、うれしくも占ひ給ふ物かな、うれしきをもつらきをも、なとかはしらてあるヘきと、もりたか殿よりの仰なり。又ひめ君より、みこのうらなひしゆへにこそ、御父もめのともかはらぬすかたにてあひたてまつるうれしさを、なとかよろこはさるヘきとて、御小袖一かさね、しやきん百まいそへ給ふ。これは御よろこひなり。なかきたんなとなるヘきとて出し給ふ。又、あかしをはしめとして、かす〳〵のねうはうたち、小袖一かさねつゝぬきて、此みこ殿にこそ [page 41] たのみをかけて、まちくらしつれ、何かはおしかるヘきとて、おもひ〳〵にいたされけれ。又ひめ君をうしなひ申、ふしをからめとりて、七日七夜にすりくひにこそしたまひける。又ねうはうは、いかなるしさいにもおこなはん事はやすけれとも、いのちをたちまちにうしなひたらは、こうくわいするともかなはしを、いま世に出し事も、いのちあるしるしなれはと思ひしるなり、ほうひはなしかたしとて、仰ふくめさせたまひて返し給ひけり。又、まゝはゝ君もいつくにもおはしまさは、あたをはおんにてほうするといふなれは、ふちをもあたへ申へきなれとも、とかある身なれは、ゐんくわのかれかたふして、ゆくゑもしらす成たまふこそあさましけれ。かくて、もりたか殿おもひのまゝにつとめ給ひて、中納言殿の御しゆくしよへいそき給ひて、さいしやうとのを申うけ、そうりやう殿とかうしまいらせて、しよりやうもいゑも四はう蔵にいたるまて、ひめ君とニ人にゆつり給ひて、へたてなくおはしまして、さいしやう殿は、たんこのかみもりいゑとなのらせ [page 42] まいらせ給ひけり、家をつかせ申。さて又山さとへ、うは君をも母上の御おもかけとて、うちつれたてまつり、ゆゝしくそきこえける。中納言殿北の御方も、ひめ君たくひなくいとおしみ給へは、御なこりおしみ給ふ事かきりなし。されとも、もりたかおほせには、御心やすくおほしめし候へ、春は花のもとの御くわい、秋は又もみちによそへても、折々の御さんくわいあるヘし、うとからす、さい〳〵御覧し候へなとゝこま〳〵とおほせをきて、御いとま申給ひて、こしくるまやりつゝけ、もりたか殿、もり家殿、うちつれてきはうたせ給へは、中納言殿はニ人のきんたちうちつれまいらせ、さいしやうとの、しよち入なれはとよろこひ給ひて、御をくりときこえけり。ゆゝしくそ見えにける。はる〳〵おくり給ひて、はや〳〵御かへり候へとて、たかいにれいきたゝしくして、中納言殿はきんたちうちつれまいらせてかへり給ひけり。又山さとにありあふ人々は、いさや御むかひに参らんとて、これほとにめてたきためし、よもあらし、しゝてましますひめ [page 43] 君さまよみかへり給ひて、ニ人になりておはします事、よろこひてもあまりありとて、上下はんみん、しつのめにいたるまて、みなうち出ておかみ申そことはりなり。もりたか殿御よろこひたとへんかたもなし。さま〳〵の御よろこひかきりなし。御内、外さまの人々まても、へいし、大つゝ、さゝけ申事ひまもなし、よるひるのさかへもなく、御さかもりとそきこえける。 [page 45] もりいゑも、きよう、たいはい、けいのふまても、人にすくれさせ給へは、一もんの人々も、これをそかんし給ひける。其後、ひめ君おほしけるは、かやうに思ふまゝにさかゆる事、ひとへに母上の御おんにあらすや、くはんせおんとて、たつとみまいらせ給ひしこそ、御まほりめもふかくおはしましけれ、いよ〳〵ありかたく候へとて、御あとをとひ給ふこそことはりなれ、たうをたて、ほとけをくやうし、せきやうをひき、わひしきものには、おやのためとてたからをあたへ、しひをもつはらにしたまへは、なを〳〵御まほりめありて、さかへさせ給ふ事かきりなし。又、あきのをも申こひて、ふうふともによきいゑつくりてすませ、毎月によね、りやうそくをとりそへて、いろ〳〵をくり給へは、ふつきゑいくわにて、あかしくらしける。ひめ君も御心のまゝにいよ〳〵めてたくして、わか君、ひめ君、うちつゝきいてき給ふほとに、おちもめのともとり〳〵なり。まへの御めのとは、あかしのつほねと申、もりいゑ殿のめのとをはしいのつほねと申て、ニ人ははくるまのりやうわのことくにて、人々のうや [page 46] まふ事かきりなし。さて又もりたか殿もひとりすみ給ふへき御としにもあらされは、中納言殿の御めいこ、廿はかりに成給ふ、御やくそくのちかふ事ありて、三とせはひとりすみ給ふ。是をまいらせ給へは、むかしの北の御かたとおほしめし、御心やすくすみ給ひて、月にも花にも心をよせ、あさ夕はらんふくわけんのみにて、ゑいくわにさかへ給ふなり。たゝ人は、心しやうしきしひにして、仏神をしん〳〵あれは、こんしやう、こしやうよかるヘし。此さうし見たまはん人にはなさけあるヘし。又かのあきのふうふのものとも、ふつきゑいくわにさかゆる事も、心のしひありて、人になさけのふかきゆへなり。よく〳〵しひしんの心ふかくして、人をあはれみなさけをかけたまふへし。なをもちかひのありかたき、くわんせおんをしんし申、一心にたのみたてまつらは、つゐにのそみをかなへつゝ、けんせあんおん、こしやうせんしよにいたるまてうたかひなし。かへす〳〵もしひをあさゆふおもふへし。 |
| Number | [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2502 |

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