doi : 10.15027/da58
たはら藤太
| License |
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| License URI | https://dc.lib.hiroshima-u.ac.jp/da/page/license1 |
| Holder | 広島大学 |
| Title | たはら藤太 |
| Title pron. | タワラトウタ |
| Author | [作者未詳] |
| Vol./Num. | 上 |
| Physical size | 1冊(全3冊) |
| Binding | 和装 |
| Printing | 写本 |
| Location | 広島大学図書館 |
| Collection | 奈良絵本 室町時代物語 |
| Description1 | [あらすじ] 朱雀院の代、近江国の俵藤太秀郷は、女房に化けた大蛇の依頼でむかでを倒し、米の尽きることのない米俵を得て栄える。のちには下総で反乱を起こした平将門をも討伐し、一門は末永く繁栄した。 |
| Description2 | [解説] 武士を中心に描いた作品である、いわゆる武家物の一種。諸本は絵巻の形で伝わる古本系統と、絵入り刊本・絵巻・絵入り写本等の形で伝わる流布本系統とに大別される。流布本系統は、「古本系を増補改作して俵藤太を主人公とする物語としての体裁を整えたもの」で、その増補改作にあたっては「特に三井寺に関する記述が詳しくなっている点が注目される」(『中世王朝物語・御伽草子事典』)。広大本は奈良絵本3冊で、流布本系統に属する。 参考文献 【テキスト】1『室町時代物語大成』9/2新潮日本古典集成『御伽草子集』/3新日本古典文学大系『室町物語集』下 ほか多数。 【研究文献】1大島由起夫「お伽草子『俵藤太物語』の本文成立」(『伝承文学研究』31、昭和60年5月)/2荒木博之「伝承のダイナミズム―俵藤太伝説形成の周辺―」(説話伝承学84『説話と歴史』、昭和60年桜楓社)/3廣田収「俵藤太絵巻」(『体系物語文学史』4、平成元年有精堂)/4松田宣史「園城寺の鐘伝承」(『國學院雑誌』100-2、平成11年2月) |
| Reprinting | [page 2] たはら藤太 上 しゆしやくゐんの御ときに、たはら藤太ひてさとゝ申て、なたかきゆうし侍り。此人はむかしたいしよくわんかまたりの大臣の御すゑ、あへのさ大しんうをなこうより、五代のそん、しう五ゐの上むらをあそんの、ちやくなんなり。むらをあそん、たはらのさとにちうしけり。しかるにひてさと十四さいになりしかは、うゐかうふりせさせて、そのなを [page 3] たはらとうたとそ、よはれける。ちやくはいの比より、てうかにめされ、みやつかへし侍る事、年久し。あるときひてさと、ちゝのもとにゆきけれは、むらをあそん、いつよりもこゝろよけにて、ひてさとにたいめんし、みきをさま〳〵にすゝめて申されけるは、人のをやの身として、わか子をいみしく申ことは、をこかましくや侍らん。さりなからをことはよの人の子にすくれて、きやうき、たいはいゆしく見え給ふ物かな。いかさまにをことはせん。そのほまれをつき給ふへき人とこそ見れ。それにつきわか家にかまたりの大臣より、さうてんしきたりしれいけんあり。われらうまうの身としてしたかへもつへきにあらす。たゝいま御へんにゆつり侍るヘし。此つるきをもつてかうみやうをきはめ [page 4] たまへ、とて三しやくあまりに見えたる、こかねつくりのたちをとりいたして、ひてさとのまへにさしをかれけれは、ひてさと此よしうけたまはり、あまりのことのうれしさに、三といたゝきつしんてたいしゆつす。されは、此つるきをさうてんしてのちは、いよ〳〵こゝろもいさみ、なに事もおもふまゝなり。うち物とつても、弓をひくにもかたをならふへきやからもなし。君の御ためちうこうをはけます事はなはたしけれは、しもつけのくにゝをんしやうをたまはつて、まかりくたるヘきにそさたまりけるこそありかたけれ。しかるにその比あふみの国せたのはしには大しやのよこたはりふせりて、上下のきせんゆきなやむことあり。ひてさとあやしくおもひて、ゆきて見 [page 5] れは、まことにそのたけ二十ちやうもやあるらんとおほしき大しやの、はしのうへによこたはり、ふせり。ふたいのまなこのかゝやけるさまは、てんに日のならひ給ふかことし。十二のつのゝするとなることは、ふゆかれのもりのこすゑにことならす。くろかねのきは上下にをひちかひたる中よりくれなゐのしたをふり出しけるは、ほのふをはくかとあやしまる。もしよのつねの人見るならは、きもたましゐもうしなひ、そのまゝたふれしぬへけれとも、もとよりひてさとは大かうのをのこなれは、すこしもはゝからす、かの大しやのせなかをむす〳〵とふんてあなたへとをりけり。 [page 6] されとも大しやはあへてをとろくけしきもなし。ひてさともうしろをかへりみす、はるかにゆきへたゝりぬ。それよりとうかいたうにをもむき、日もせいさんに入ぬれは、あるやとのていにやとられける。すてにその夜もふけゆくまゝにゆめもむすはゆかりねのまくらかたむけんとしたまふところに、やとのあるしの申やう、たれ人に [page 7] やらん、たひ人にたいめん申さんと申て、あやしけなる女はう一人、もんのほとりにたゝすみてをはします、と申。ひてさときゝて、あらおもひよらすや。そもいつくの人にてましませは、われにけんさんせんとはのたまふそ。さらにこそこゝろへね。さりなからおほしめすしさいのましませはこそ、これまて御出あれ。たつね給ふへき事あらはこなたへいらせたまへ、とありけれは、あるし、かの女しやうにかくと申す時に、女しやういふやうは、いや〳〵これはくるしからす。みやこのかたのものなるか、こゝにていさゝか申入へき事あり。おほそれなから、これまて御出あれかし、と申す。さるほとにひてさと、したいするにおよはねは、ゐたるところをつゐたつて、もんくわいに出て 見てあれは、はたちあま [page 8] りの女しやう、たゝ一人たゝすみゐたり。そのかたちを見るに、ようかんひれいにしてあたりもかゝやくほとなり。かみのかゝりうるはしう、さなから此世の人とは思はれす。あやしさはかきりなし。おもはゆけにて、日ころもの申たりともおほえぬ人の夜ふけてことさらたつねたまふこそおほつかなく候へとも、と申されは、かの女はう、藤太かそはにさしより小こゑに申やう、まことにわらはを見しりたまはぬこそことはりなれ。われはこれよのつねの人にあらす。けふしもせたのはしにてまみへ申せし大しやのへんけしたる女なり、とそ申ける。藤太此よしきゝて、されはこそとおもひ、さていかなることのしさひにかへんけしてきたり給ふ、と申されけれは、女はう申うやう、日ころはさためてきこし [page 9] めしおよひ給ふへし。わらはゝあふみの水うみにすむなり。むかし久かたのあめのみちひらけ、あらかねのつちかたまりて、このあきつすのくにさたまりしときより、かのこすいにきよをしめ、七とまてくははらとなりしにも、かたちを人に見せす。しかるところに、人わう四十四代にあたつて、元正てんわうと申すみかとの御時に、日ほんたい二のゐん、この神かのこすゐのほとり、みかみのたけにあまくたらせたまふ。それよりをちつかた、かの山にむかてといふものいてきて、野山のけた物こうかのうろくずをむさほることとし久し。これにわらわかたくひ、たひ〳〵かれにふくせられ、三ねつのくるしみのうへに、しうたんのなみたかわくひいかにもして此かたきをほろほし、あんせんのにしへになさはや、とはか [page 10] りことをめくらすといへとも、わらはかたくひとして、たやすくたいらけん事かなひかたし。もしにんけんにしかるヘききりやうの人ましまさは、ちなみよりてたのみ侍らはや、とおもひ、せたのはしによこたわつて、ゆきゝの人をうかかふに、つゐにあたりへちかつくものもなし。かゝる所にけふの御へんの御ふるまひ、まことにたへかたき御こゝろねかな。此うへはかのかたきをほろほさん人は御身にかきりてあるヘからす、とたのみ申てまいりたり。わか国のあんきは御こと葉によるヘし、とてまことによきなきありさまなり。 [page 11] 藤太此よしをつく〳〵と聞侍りて、扨もなんきの事かな。よのつねならぬ物のたのみてきたりしを、いへんわろひれり。また大事をしそんしたらんは、せんそのなをり、まつたいのちしよくなるヘし。さりなから我たのむ神のめくみのましませはこそ、日ほん六十よしうにぬきんてゝわれをめあてゝきたるらめ。なかんつくりうくうと和こくとはこんたい [page 12] りやうふのくになれは、あまてらす太神もほん地を大日のそんさうにかくしすいしやくをさうかいのりう神にあらわしたまへり、とうけたまわりをよふときは、いきにおよふまし、と思ひさためけれは、しこくをめくらさす、こん夜のうちにまかりて、かのかたきをほろほし侍るヘき、と申けれは、女はうなのめによろこひて、かきけすやうにうせにけり。さるほとに藤太はやくそくのときをたかへしと、ちうたいのたちをはき一しやう身をはなたすもちたりししけとうの弓の、五人はりありけるに、せきつるかけてわきはさみ、十五そく三つふせある三年竹の、大やのやしりなかは過たるを、たゝ三すちたはさんて、せたをさしていそきけり。こすいのみきわにうちのそみて、みかみの山をなかむれは、ひかりすることしきりなり。 [page 13] されはこそくたんのはけ物きたるにこそとまもりゐけるところに、しはらくあつて雨かせをひたゝしくするほとに、ひらのたかねのかたよりも、たいまつ二三千あまりたきあけて、みかみのうこくことくにとうようしてきたる事あり。山をうこかしたにをひゝかすをとは、百干万のいかつちもかくやらんをそろしなんとは、はかりなし。されとも藤太は世にきこふるかうのものなれは、すこしもさわかす、りうくうのかたきといふは、これならんとおもひさためて、くたんの弓やをさしくわへ、はけ物のちかつくをまつほとに、や比にもなりしかは、あくまてひきしほり、みけんのまんなかとおほしきところをいたりしに、そのてこたへ、くろかねのいたなとをいるやうにきこへて、はすをかへしてたゝさりけれは、やすからす [page 14] おもひて、また二のやをとつてつかひ、おなしやつほをこゝろかけ、わするゝはかりひきしほりて、いたりけるか、此やもまたおとりかへつて、身にはすこしもたゝさりけり。たゝ三すちもつたるやを二すちはいそんしたり。たのむところはたゝ一すち、これをいそんしては、いかゝせん、ととり〳〵におもひめくらしつ、このたひのやしりにはつはきをはきかけ、うちつかひ、なむ八まん大ほさつと心中にきねんしてまたおなしやつほとこゝろかけよつひいてひやうとはなちけれは [page 15] こんとはてこたへして、はたとあたるとおほえしより、二三せん見えつるたいまつ一とにはつときゑ、百千万のいかつちのをとも、ひし〳〵となりやみけり。さてははけものはめつしたる事うたかひなし、とおもひしもへともにたいまつともさせ、くたんのはけ物をよく〳〵見れはまかふへくもなきむかてなり。百せんのいかつちときこえしは、大地をひゝかす [page 16] をとなるへし。二三せんのたいまつと見えしは、あしにてやあるらん。かしらはうしおにのことくにて、そのかたち大なること、たとへんかたもなし。くたんのやはみけんのたゝ中をとをつて、のんとのしたまてくつとぬけとをりけり。きうしよなれはことはりといひなから、かほとの大きなるはけ物一すちとをるやに、いたみほろけるゆんせいのほとこそ、ゆしけれ。さるほとに、はしめ二すちのやは、くろかねをいることくにて、たゝすのちのやのとをりしことは、つはきをやしりにぬりたるゆへなり。つはきはそうしてむかてのとくなれはなり。日ころいきほひをふるまひしものなれは、なをもあたをなすこともや、とてくたんのむかてをはすた〳〵にきりすて、こすいにこそはなかされたり。それよりも藤太はしゆく [page 17] しよにかへりたまひけり。あけの夜またゆふへのによしやうきたりけり。このたひはすくにていまて入て、藤太殿にけんさんせんといふ。藤太やかて出あひてたいめんしけれは、女房うらやかなるこゑにて、扨〳〵きはうのゆふりきにて日ころのかたきをたいらけ、あんせんの代となしたまふこそ、かへす〳〵もしんへうなれ。よろこひ身にあまりて侍れは、をんをほうするにものなし。せめてはわたくしにもつところの物にてもまつ〳〵まいらせん、とおもひてこれもちてきたりたり、とて藤太か前にすゑならへたるものを見れは、巻きぬ二つ、くひゆふたるたはらしやくとうのなへひとつそ候ひける。たはら藤太はこのよしを見るよりも、まことにありかたき御こゝろさしかな。しかれはこんとの御事は [page 18] みやうのはうへんによつてかうみやうをきはめ候へは、御身のよろこひは申におよはす。われらの家のめんほくなにことかこれにしかんや。そのうへかやうに御たから物たまはり候こと、よろこひの中のよろこひにて侍る、としきたいして申されけれは [page 19] 扨女はうもこゝろよけにて、さらはまつこよひはかへり侍るヘし。かへす〳〵もこんとのよろこひ、わか身一人にたくへかたし。千万人のためによろしけれは、かさねてそのとくをほうし申さん、とて女房はいつちともなくかへりけり。ひてさとくたんの女はうにえたりし巻きぬをとり出し、いしやうにしたつるところに、たてとも〳〵つきす、またよねのたはらをひらきつよねをとりいたすに、これもつゐにつきせす。扨こそ藤太をはたはらとうたとは申けり。扨またなへのうちにはおもふまゝのしよくもつ、わきいてけるこそふしきなれ。藤太はなをもきとくを見る事もこそ、とおもひてまつところに、あんのことく月あかき夜のふけかたに、くたんの女しやうをとつれ給ふ。とうたいそきたち出てちうもんへしやうしつ、その有さまを [page 20] 見てあれは、ひれゐなる事前のすかたにはようかはれり。つたへうけたまはるてんちくのやしゆたら女たうのせいしりふしんと申とも、これにはいかてかおよひ給ふへけれ。はたゝきけんしやうのてん女の、あまくたり給ふか、とはしめてをとろくはかりなり。さてもりうによのたまふやうは、さいせんに申しゝことく、としころのたいてきをたやすくほろほしたまへること、われらか一もんけんそくともによろこひ侍るといへとも、あまたのものゝこと〳〵くこれまてあらはれまいりて御をんをほうし申さん事いとやすきやうにてさはりあり。されはおほそれおほきことなりといへとも、君をわかふるさとにくしまいらせはや、とのねかひにて、これまてわらは御むかひのためにまいりたりとて、ものほうしをかうふりしうへは、御こゝろ [page 21] をおかせ給ふまし。とく〳〵御出あれかし、と申けれは、藤太此よしうけたまはり、これほとにたいせつに侍るなれは、よもわか身のためはあしからし、とおもひてかのりう女とうちつれりうくうへといそきけり。 [page 22] さるほとにりう女は、たはら藤太をともなひ、まん〳〵としてほとりもなきこすいの中にいりにけり。ちよかと見れともそこもなく、ほとりも見へぬかいていの、けふりのなみをしのけは、くものなみしつかならす、くものなみをわけゆけは、すいりんさいもきわまりぬ。すいりんさいをうちすきて、こんりんさいにをよへは、ふうりんさいにちかくなりふうりんさいをもすきしかは、うき世のなかとおほしきくにゝ出ににけり。これなんわかすむところ、といふにつけて見れは、五しやうそはたち、七ほうのくうてん、こかねのろうもんかゝやきわたれり。りうわうのけんそく、いるいいきやうのうろくす、はやく〳〵にしたかつて、ろうもんろうかくにはいくわいす。われしちいきのていしやう、きんもんけい、このゑしにことならす。 [page 23] 藤太をともなひしりう女の、もんにいらせ給へは、もろ〳〵のりうしんは、かうへをかたふけ、らいをなす。もんよりうちには、各〳〵のしゆほくはなさきひらけて、一々の花の中よりも、七ほうのこのみみちたる。こくらくせかいもかくやらん。扨ろう門をうちすきて、あゆむあしもかうはしきたまのきたはしよちのほれは、しゝいてんとおほしくて、すせんけんにつくりみかけるくうてんあり。にはには、るりのいさこ、しんしゆのいさこ、ほとりもなくまきみてり。こかねのはしら、玉のこしり、七ほうのらんかん、たまのいしたゝみあたゝかなり。御てんのきれいさ、しやうこんは、めに見ることは申にをよはす。かつてみゝにもきゝをよはす。りう女とうたの袖をひかへ、しんてんのまんなかに玉のきよくろくをかまへ [page 24] て、これへ、といふて、すゑをかる。しはらくあつておんかくをそうすることあり。そののち八大りうわうの第一、しやかつらりうわう、八万四せんのけんそくをひきつれ、玉さになをり給ふ。りう女もおなしくきよくさになをりたまふ。玉座さたまつてたかひの一れい、ことこまやかなり。ときにさうくはんのりう女、百みのちんせんをさゝけいつる。りうわうの御まへにすへ、そのつきにはとうた、そのつきにはりう女に、すへたり。そのをんちきよのつねならす。ふくするにこゝろよく、かうはしきことたくひなし。しはしありてまたこかねのはんに、かうかいのはいをすへ、しろかねのてうしにてんのこんすもりて出たり。これもまつりうわうのみそめ給ふこと三と、そのゝちとうたのまへにもちてまいる。藤太もおなしく [page 25] 三とうけたり。そのあちわいてんのかんろなれは、申にやおよはす。ふらんうつらか八まんさいをへたりしも此みきのとくにこそありつらめ、といとありかたくそおもはれける。しゆゑんのきしき、日ほんにはようかわりて、さかつきもめくらさす、おもひさしもなけれ。たゝこゝろのゆくほと、さしうけ〳〵のみけるなり。さんかいのちんくわをほうらいのことくにつみあけて、もてなしかしつきけるヘに、さま〳〵のひきて物をせられけるこそゆしけれ。藤太こゝろにおもひけるは、扨もかほとのたのしみは、たいほんかうたいのゑいくわと申とも、これにやをよふへき。かほとありかたきこくとにもくは侍るか、ととひたまへは、そのときりうわうの御ちやうには、中〳〵の事申にやをよふ。てんしやうの [page 26] 五すい、にんけんの八く、りうくうの三ねつ、とていつれもくのなき国はなし。なかんつくこのくにゝ、としころおもきくかんの侍りしを、御へん此たひしんへんをふるひ、たやすくめつほうし給ひけること、佛神の御たすけにひとしくありかたくおほえ侍るなり。一しはんしやうのよろこひとは、しかしなからこれをそ申へき。此御をんは、ほうしてもほうしつくしかたけれは、みらいやう〳〵にかきるまし。御身のしそんのためにかならすをんをしやすへし、とのたまひて、こかねさねのよろいおなしくたち一ふり、とりそへ、藤太にあたへたまふ。此よろいをめし此けんをもつて、てうてきをほろほし、しやうくんににんしたまふへし。またしやくとうのつりかね一つとりいたさせ、此つきかねと [page 27] 申は、むかし大しやうしやかによらい、中てんちくにしゆつせしたまふとき、しゆたつちやうしやと申人、きをんしやうしやをつくりて、佛にくやうし奉りし時、むしやうゐんのかねのねをは、うつしたるかねなれは、しよきやうむしやうとひゝくなり。このかねのこゑをきくときは、むみやうほんなふたちまちにせうめつし、ほたいのきしにいたるなり。かゝるふしきのてうほうなれは、此国にせいさうとし久しくたもつといへとも、此たひのさゝけ物にこれもおなしくたてまつる。日ほんのたからになし給へ、とのたまひけれは、藤太此よしうけたまはり、よろい、つるきは、まことに家のたからなり。つりかねのことはわれふしの身なれは、さのみのそみ申にはあらねとも、ゆらいをくはしくうけたまはれは、まつたいわかてうの [page 28] たから、なにかこれにまさらん。これなをもつてありかたし。さりなから、かほとのおもきつりかねをいかてかたまはりかへるヘしや。これそなんきなり、と申されけれは、そのときりうわうほゝゑみていみしくも申されたるものかな。弓やをとつてつよき物をほろほすてたてこそかた〳〵にはをよはすとも、かやうのものをもてあつかう事はわかけんそくのしうなり。こゝろにかけたまふことなかれ、とてすなはち、いるいいきやうのうろくすはらに、仰て水中に引されけり。すてにしこくもうつりけれは、藤太こゝろに思はれけるは、むかしたんこのくによさのこほり水のえのうらしまか子とやらんも、をとめにあひて、たまさかにこのとこ世のくにゝいたりしに、かゝるけらくにふけりいにしへゆくすゑをわすれてとしをふること三とせなり。 [page 29] あるときふるさとのこひしさにをとめにいとまをこひ、水のえにかへりて見てあれは、すみしふるさともかわりはて見しれる人もなきほとに、かく有へしやは、といふかしくよく〳〵とへは、それむかし三百よ年のことなり、といふ人あるにをとろきて、つゐにむなしくなるときく。かゝるためしもあるそかし。われはことさらてうかほうこうの身なり。ことさらふるさとに、とし老たちゝはゝのましませはときのまも見まほしくて、はや〳〵御いとまを申されけれはりうしんはなをもなこりをしけにてさま〳〵のけうをつくしてなくさめ給ふ。 [page 30] 絵のみ [page 31] さるほとにりう女はたはら藤太ひてさとをさま〳〵にもてなし、なくさめたまひけるほとに、やう〳〵しこくもうつりけれは、藤太は大わうにいとまをこひ、りうくうを出られけるかちうをあよむこと [page 32] せつなのほとゝおほゆれはせたのはしにそつかれける。 |
| Number | [配置場所]貴重資料室/[登録番号1]大国2797/[登録番号2]文理13327 |

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